次世代型酵素触媒反応を志向する不斉合成反応の開発研究
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概要
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近年,天然の酵素触媒を利用する有機合成反応の開発に関心が高まっている.これは,最先端の化学触媒でも達成が困難な常温常圧の緩和な条件下,簡単な操作で極めて高い選択性が得られるためである.さらに,環境への安全性から環境調和型反応としても期待が大きい.しかし,酵素触媒反応は,利用法が限定されていることも事実である.多様な酵素の中でも,加水分解酵素は基質特異性が緩やかで,安定で取扱い易く,再利用可能などの利点から有機合成に最も汎用され,全体の約7割を占める.その代表格であるリパーゼは,本来の水系溶媒中でのエステル加水分解に加え,有機溶媒中で使用すればエステル形成を触媒し,ラセミ体の光学分割,対称性化合物の非対称化,水酸基の位置選択的なアシル化などに利用されている.しかし,これらの用途は主として光学活性体の調製に限られ,炭素-炭素結合形成反応などの分子構築反応への利用は皆無であった.一方で,アルドラーゼのような炭素-炭素結合形成反応を促準する酵素を有機合成に利用する試みもあるが,基質特異性が著しい.また,1990年代中ごろ以降Diels-Alder反応を触媒する酸化酵素)や合成酵素が初めて報告された.これらはいずれも,ある天然物の生合成経路の一工程に作用する酵素であるが,もしもっとポピュラーな加水分解酵素を分子構築反応に利用することができれば,その高度な分子認識能と柔軟な基質特異性を活かして,化学触媒に近い汎用性と酵素本来の環境調和性を併せ持つ魅力的な不斉合成法になると思われる.筆者は,このような次世代型の酵素触媒反応の開発に興味を抱き,本研究に着手した.例えば,アルコール(±)-Iとアシル化剤IIの両方に反応活性な官能基を持たせた反応系でエステル形成を経る光学分割を行い,さらに,導入されたアシル基と基質との分子内環化反応を連続して酵素触媒下に進行させて,多数の不斉炭素を有する多環式化合物IVを一挙に得るドミノ型合成法が考えられる.この連続反応では,生じる光学活性エステルIIIがリパーゼの活性中心の不斉空間で何らかの影響を受けて立体選択的な環化反応を起こすのではないかと期待した.このような次世代型酵素反応を行うには,まず,最初のステップにおいて望みの官能基を有し,かつ反応活性なアシル化剤IIが容易に合成できることが不可欠である.しかし,以下に述べるように,現在最も優れたアシル化剤として汎用されているビニルエステルでは,アシル基部分を自由に構造修飾することが困難で,また酵素の失活などの問題もあり,ビニルエステルに代わる新しいアシル化剤の開発が鍵となった.本稿では,筆者らがこの数年,上記反応の開発に向けて行った研究の成果,すなわち,1)酵素の失活がなく,高い反応性と選択性を持ち,望みのアシル基を有する新規アシル化剤1-エトキシビニルエステル(EVE)の開発,2)EVEを用いる対称性ジオールの不斉非対称化法とその応用,及び3)EVEを用いるドミノ型反応,酵素触媒の分子内炭素-炭素結合形成反応への影響と動的光学分割の開発の3項目について順次述べる.
- 2003-11-01
著者
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