限界への挑戦 : 作品資料研究へのe-Science導入にあたって(セッション2 : 楽譜資料研究)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
バッハ研究が過去50年間に示した作品資料への包括的なアプローチは、他の作曲家の作品研究にとって模範とされうるほど熟し、際限無く細部まで探求し尽くされているような印象を与えているらしい。しかし現状はといえば、厳格に検証されたが故に顕わになった情報の欠如や極度に複雑な資料状況など、解釈の限界というものに悩まされる機会もことさら多いのが実態である。これを打破するには、新しい資料の発見を待つという受身の選択か、画期的でパワフルな研究法を確立するかしかない。本発表では、後者の可能性と将来性を論じる。従来の資料研究は、紙やインクの分析などの古文書学的調査では科学技術的方法を採用することはあったものの、楽譜の分析-つまり資料批判などの文献学的調査や、記譜に反映される作曲家・筆写者・編集者の活動の社会背景、それに筆跡の調査など-にあたっては、科学技術からの応用は殆ど皆無であった。今後の楽譜資料研究では、紙に記された記号を21世紀の読者からの一視点として考察するのみならず、18世紀に生きた個人の癖やその時代と地域特有の習慣などを含めて、記譜側の能力や姿勢、意図をも読み取れるシステムの開発を通し、そこから得た膨大なデータを人工知能の技術を用いて処理することにより、これまで見えなかった楽譜作成時の様子をより立体的に再構築することが鍵になってくるであろう。将来、研究の専門化と細分化はより進行する傾向にあり、このままでは他人の研究はより見え難くなる事は必至である。グローバリゼーションが進む中、我々研究者は世界各地で独自の研究を進めつつも、他人の研究が速やかに応用できるような環境造りに積極的に取組まなければならない。科学分野ですでに始まったe-Scienceをモデルに、世界各地に散在する資料データや計算機などの資源をインターネットを通して共有することにより、柔軟でかつ安定したダイナミックな研究基盤を構築してゆくことが理想である。本論では、具体的な方法論と実践へ向けてのいくつかの提言をしたい。
- 一般社団法人情報処理学会の論文
- 2002-10-25
著者
関連論文
- 平均律クラヴィーア曲集第二巻の手稿譜に関するデータベース構築とその利用(セッション2 : 楽譜資料研究)
- 限界への挑戦 : 作品資料研究へのe-Science導入にあたって(セッション2 : 楽譜資料研究)