フタモンアシナガバチに於ける社会的協同について : 日本産社会性蜂類の研究 IX
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概要
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1. アシナガバチ類の社会生活の秩序や社会構造を明らかにするため, 自然条件下に営巣しているフタモンアシナガバチの巣について, 働蜂が羽化する前及び, 羽化し始めて6-8日目に野外観察を行い, 成虫相互間及び成虫と幼虫との間の社会的協同について研究を行つた.2. 肉塊や獲物の体液等の蛋白質に富んだ食物が, 成虫個体間に移動する時, 特定の個体に集中する傾向が顕著である.この観察では建設雌が最も度々獲得し, 優劣の順位にはほぼ並行して受取る回数が減少している.順位の上の個体がより多く獲得するのは, これらの個体は蛋白代謝系の働きが旺んなため, 蛋白質に富んだ食物に対する生理的欲求が強いことに基因すると推察される.最上位の個体が非常に多く獲得するのは, 他の個体が特に積極的にこの食物を提供することも原因の1つであり, これは順位制の機能の現われである.3. 個体間における蜜の動きは順位の上の個体から下の個体へと伝播している.これは比較的上位の個体に度々蜜を採集するものがあること, 上位の個体は一般に蛋白質に対する欲求が強く, 肉を多く得るため, この食は蛋白に対する欲求の弱い下位の個体の飢餓を満すことになるのである.4. 給餌は老令の幼虫から順に行うが, これは給餌に伴う簡単な信号系が, 成虫と幼虫との間に存在し, 一般に令の大きな幼虫程, 成虫の給餌行動を誘発する強い信号刺戟を出し得るためである.成虫の発する給餌の信号刺戟に反応しない幼虫には給餌しない.5. 成虫個体間の食物の受渡しに当つても, 信号刺戟の交換, 即ち信号行動による2個体以上の行動が認められる.この場合, 食物授受の行動を積極的に行う個体がactorになる.Actorが信号を発する際には触角が用いられる.本研究を行うに当つて九州大学農学部安松京三先生に懇切な御指導を賜つたことを厚く御礼申上げる.又, 常々御指導と御鞭撻を頂いている兵庫農科大学昆虫学研究室の岩田久二雄先生にも謝意を表する.
- 日本昆虫学会の論文
- 1960-09-10