カンラン石のメスバウァー法による研究 : Fe^<2+>サイト占有率T_<Mi>と格子面間隔d_<130>の関係
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概要
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合成カンラン石中の八面体陽イオンサイト(M1,M2)におけるFe^<2+>のサイト占有率(T_<Mi>)をメスバウァー法で求めた。同時にこれらのカンラン石の格子定数と格子面間隔(d_<130>)を精密に測定して,T_<Mi>との関係を調べた。さらにカンラン石の熟成温度によってこれらの変数がどのように変化するか検討した。これらの結果は図表1〜2に示されている。同一組成のカンラン石において,d_<130>はT_<Mi>と一次の関係で変化している。従って,カンラン石中のMg/Feの秩序無秩序現象はd_<130>の測定によっても検出可能である。このd_<130>のT_<Mi>に対する依存度はカンラン石の組成ごとに異っている。従来カンラン石固溶体の格子定数やd_<130>がモル組成に対してほぼ直線的に変化するので,カンラン石は理想的固溶体であるとする見方があった。しかしd_<130>とT_<Mi>の関係が明らかである点から考えて,カンラン石中の結晶内陽イオン交換平衡は非理想的なものであると推定される。一方T_<Mi>に対する格子定数の変化は検出できなかった。この原因は種々の実験誤差を含む格子面間隔から計算される格子定数にはその誤差の伝播が大きく効いて,T_<Mi>による変化は誤差に含まれてしまうからである。これに対し内部標準のNaClの(200)回折線の直ぐ隣に現れるカンラン石の(130)は試料面の偏心誤差や吸収誤差が最小限に補正されて,d_<130>は±0.004Å位の精度で容易に求められ,T_<Mi>とd_<130>の関係が検出できた。合成カンラン石中ではFe^<2+>のサイト選択性が相当に起っている。M2サイトに比べ,サイズの小さな,歪みの大きいM1サイト中にFe^<2+>は温度の上昇と共に著しく濃集している。このような傾向は他の苦鉄質造岩鉱物には見られないことで,これは簡単な化学組成であるにもかかわらずカンラン石中の結晶内陽イオン交換平衡の解析に著しい混乱が生じたことの原因であろう。d_<130>は温度の上昇と共にFe^<2+>がM1サイトに濃集するので次第に小さくなっている。この原因は同一組成でT_<Mi>の異っているようなカンラン石の精密構造解析のデータがないので明らかでないがBROWNとPREWITT (1973)による3種の各々組成とT_<Mi>の異なるカンラン石の結晶学的データを基に推定すると次のようになる。(130)面はM1八面体の0_2-01'-0_3'面とほぼ一致し,温度の上昇やFe^<2+>の濃集と共にM1の歪みは大きくなる。この歪みがd_<130>の減少となって現れるのであろう。従ってサイズの小さなM1サイトにMgより大きなFe^<2+>が濃集しても体積の減少となっては現れずM1八面体の歪みが01-01'方向に伸長するように現れるのであろう。格子容はむしろ増大するような傾向を示している(第3表)。一方600℃においてはもはやMg/Feの交換反応は起っていない。また1400℃ではカンラン石中のFe^<2+>が試料を含んでいるPtPh合金のカプセルに固溶して組成が変化するのでこれらの関係は追跡できなかった。カンラン石結晶内のMg/Feの交換反応の研究にメスバウァー法と相補的に粉末X線回折法を使えば有益であろう。YODERとSAHAMA (1957)はd_<130>を使ってカンラン石の組成を求める検量線が天然物と合成物とで異っていることを示した。SHINNO et al. (1974)によれば一般に天然物の方がよりMg/Feの分布が無秩序な状態にあるから,d_<130>が高温合成されてFe^<2+>の比較的秩序化したもののd_<130>よりは大きな値を持つことは容易に推定される。このようなT_<Mi>とd_<130>の関係は本実験結果と一致すると共にYODERとSAHAMAL (1957)の提出した未解決の問題に1つの可能な説明ができたことになる。
- 1974-09-30