コンメディア・デッラルテとゴルドーニとの関係について
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概要
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十六、十七世紀、イタリアに於いて異常な発展を見せた演劇であるコンメディア・デッラルテCommedia dell'Arteが性格喜劇への志向をもたなかったことは、その内容を見るならば、すぐに分るのであるが、しかし演劇史的に見て、MoliereやゴルドーニGoldoniへの影響を以て、性格喜劇への前段階的準備をなした事は認めることができて、Comnedia dell' Arteの演劇史的価値をほとんどこの後代への影響だけに見て、たとえば、Moliereに於けるCommedia dell'Arteの影響とか、ゴルドーニに於ける影響とか云った云い方をする。この云い方自体に誤りはないとしても、一つの演劇形式から他の演劇形式へとつながる過程の中で、その関係を見る時に、具体的に、どのような観点に立って、どのような研究方法を用いればよいのであろうか。このことは演劇を越えて、文学上のジャンルの問題、そしてまた文学の研究方法の問題でもあってわれわれはそれらに対する態度を明らかにすることを迫られる。ここで、まづCommedia dell'Arteとゴルドーニとの関係を見る時に、原始的な、文学以前のジャンルと、発達した文学のジャンルとの関係を見ることができて、複雑な文学形式がもっと単純な単位から発展してくるものならば、ゴルドーニに於けるCommedia dell'Arteの影響は、Commedia dell'Arteからゴルドーニへ向う発展と、ゴルドーニに於けるCommedia dell'Arteの衰退と言う二様の観点から見なければならない。しかしながら、ゴルドーニに向う発展がゴルドーニに達すると同時に衰退が始まるのであって、この起伏はひと続きのものと考えるべきである。この両者は、それぞれ一定の演劇形式をもっていて、それが各々の喜劇的要素(笑いの性質)と分ち難くからみ合って、ことに、Commedia dell'Arteに於いては、lazziという形式と、その道化の性質とはどちらがどちらを創り上げたとは云えなくて、形式と内容とは分けられず、お互いにその存在理由を相手に負っている。これとまったくおなじ関係が一般的に演劇形式についても云えるはずで、それは演劇的要素とでも名付けるべきものとの関係が考えられて、つまり演劇形式の内面的、概念的な根拠であって、演劇を演劇としてみなしうる諸要素、しかも他の演劇形式から自らを区別させうる諸要素で、ある一つの演劇形式はそれ独自の演劇的要素によって性格づけられて、発展し、あるいはまた、制約をうけることになる。この演劇的要素はその演劇形式の論理とも、規範ともよべるもので、それによって演劇形式はそうなるべき姿になるのであって、ときには作者の意図さえ無視することもおこる。たとえば、ゴルドーニが性格喜劇を書こうとしたことは明瞭であるが、だからと云って彼の作品がそうであるとは云えなくて、彼の最初の性格喜劇と自称したLa donna di gardo(1740. Genova)の中のRosauraの性格は我々にとっていささか「幻想的」fantasticoである。Goldoniが自分の考えたとおりに性格を創造しえたと仮定すれば、ゾラもおなじ仮定のうえで実験小説が書けた筈である。作品を評価する基準となるものは、作者ではなくて、作品の中に存在する演劇的要素でしかない。そして、それをつかむ手掛りはその演劇形式としての構造を対象とする以外にない。なぜならば、作品に於いて、構造は演劇的要素の客観的表現形態にほかならぬからであり、また、このように全く概念的で、作者よりも作品に属している演劇的要素を恣意を含めずに分析し得るのは演劇形式としての構造を通してよりほかにないからである。そして、喜劇的要素(笑いの性質)との関連に於いて、講造の機能を検討することによって、喜劇の演劇的要素を正当に把握することが出来る筈である。かくして、Commedia dell'Arteの発展と、Goldoniの中に於ける衰退との過程に於いて、Commedia dell'Arteの演劇的要素と、ゴルドーニの演劇的要素とを比較して、その類似点と相違点とを指摘することが、実はこの二つの演劇形式の関係を明らかにすることになると考える。
- 1961-01-30
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