タベルナーコロ型額縁の成立に関する一考察
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1.はじめに 額縁は単に装飾性や有用性のみを担っているわけではない。ある空間に絵画が展示されるとき、額縁と絵画とが相互に補い合って巧みな視覚的効果をあげているのを見れば、そのことは十分に理解されるだろう。額縁は絵画を周辺にある関係のない全てのものから切り離し、鑑賞者の眼をそこに集中させ、また一方で絵画と周囲の壁面あるいは空間とを密接に関連づけている。とりわけルネサンス期において、額縁は絵画空間と現実の空間とを視覚的に結びつける媒介物として重要な役割を担っていた。ルネサンス期にその役割を担ったのが、一般にタベルナーコロ型と呼ばれる額縁である。その典型的な形状を簡単に述べるならば、板絵の外縁をモールディングが囲み、その両側にコンポジット式あるいはコリント式柱頭をもつフルーティングの付いた付柱か円柱があり、それがエンタブラチュアを支える構成になっている。ルネサンス期イタリアの美術家たちは、タベルナーコロ型額縁によって祭壇画を礼拝堂の建築に巧みに調和させ、そこに見事な統一空間を創り出した。これが祭壇画用の木製枠組としてイタリアで最初に現れたのは、おそらく1430年代のフィレンツェにおいてであり、15世紀の第3四半期を頂点として最もスタンダードなタイプとなり、以後数世紀にわたりイタリア内外でも絶えず模倣され多くのヴァリエーションを生みながら発展した。ところで持ち運び可能な小型の絵画いわゆるタブローあるいはイーゼル画と呼ばれるものが、室内の壁面を飾るために登場するのは15世紀後半以降のことであり、ルネサンス期のイタリアではこのような矩形の額縁をタイプとしてカッセッタあるいはエンタブラチュア額縁と呼んでいる。これが今日的な意味での額縁、つまり絵画とは別個に製作され後から取り付けられる独立した矩形の額縁の始まりである。それ以前の板絵は、たいてい礼拝堂の祭壇を飾る大型の祭壇画か、携帯用のディプティク、トリプティクあるいは家庭用のアーチ形をした小型の礼拝像であり、そこでは絵画と額縁は一体であった。絵画が描かれる板材自体を周辺のみを残して内側を削り取って額縁にしたものや、モールディングを周囲に固定したものが額縁として機能していたのである。14世紀には額縁と絵画が一体となってさらに複雑な一つの構造体を形成していた。15世紀の第2四半期になってようやく額縁は絵画から物理的に独立する。カッセッタあるいはエンタブラチュア額縁はタベルナーコロ型額縁の変形として生じ発展していったものであり、その点でこのタイプの額縁は今日的な額縁の確立点に位置することになる。現在タベルナーコロ型額縁がもつ重要性は、祭壇画研究と額縁自体の研究の二方向から指摘されているように思われる。ブルクハルトやブラウン以来行われてきた祭壇画に関する総合的な研究は、特に1980年代より活発になり、とりわけC.G.フォン・トイフェル、H.W.ファン・オスやP.ハンフリーらによってその重要性が説かれた。彼らは祭壇画を従来のように絵画作品として作者、様式、年代決定やイコノグラフィーの点から論じるのではなく、周囲の建築空間との関わりにおいて捉え、そのオリジナル・セッティングを再構築するなかで、額縁が果たした役割は如何に大きいかを論じている。一方近年、額縁自体が美術史研究の対象となり、額縁を様式・技法・来歴等、様々な方面から体系的に論じようとする動きが高まりつつあり、そうした中でタベルナーコロ型額縁は、額縁のルネサンス様式として認識されるようになった。本稿の目的は、そうした研究成果を踏まえてタベルナーコロ型額縁成立の背景を次の二点、「祭壇画形式との関わり」と「建築との関わり」という視点から総合的に考察することにある。
- 1996-10-20
論文 | ランダム
- 国鉄のエネルギ-事情
- 貨物輸送の地域間特性と消費エネルギ---科学技術庁・資源調査会報告書概要
- 都市交通におけるエネルギ-消費--米国議会予算局報告書の考察と併せて (エネルギ-制約と交通問題)
- 受付医事室チームの接遇・業務改善--自分たちの姿をみて気づいたこと
- 簡易懸濁法導入による看護業務の改善