『オルランド・フリオーソ』第33歌、フランス軍敗退史をめぐって
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概要
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『フリオーソ』C版付加エピソードのひとつである「トリスタンの砦」には、マーリンが魔法を使って描かせたという壁画が登場する。イタリアに侵入したフランスの軍勢が疫病や負け戦のためにことごとく敗退を余儀なくされるであろうことを予言する内容の壁画である。これは、第15歌においてアンドロニカが船上のアストルフォに聞かせる地理上の発見についての予言や、第26歌に登場する泉の浮き彫りなどと同様、君侯賛美の色彩の強い同時代史にほかならないが、その規模や対象となる事件の政治的重要性は群を抜いており、ストーリーの展開には直接の関係がないものの、そこにはアリオストがC版の読者に向けて放った時代認識が集約されていると考えられることから、作品理解のうえでも一定の意味を持つものと思われる。実際、今世紀初頭からLisio, Pirazzoli, あるいはビブリオグラフィーで有名なFatini、それに最近ではCasadeiといった研究者たちがこの部分に関してはそれぞれの見解を披露している。ところが、そうした人々の間には相当な見解の相違があり、フェラーラ公国の外交が親仏路線から親皇帝路線に転換したことの反映だ、というもっともらしい説から、当初ここに挿入される予定だった詩句の出来があまり芳しくなかったためにこのような改変が行なわれたのであって政治的な意味は二の次だというような把え方、あるいはフェラーラ一国を超えたイタリア人としての愛国者意識の表われだとする主張まで、実に様々なのである。このような解釈の不一致は、そもそもこの「壁画」に込められたアリオストのメッセージそのものが必ずしも明快でないところに起因する。だいたい「フランス軍敗退史」というテーマからして政治的な意味合いがまったく無いはずはないのであるが、ではそれが一体どういう意味か、つまりアリオストの訴えようとしたのが具体的に何であったのかという点になると、もうひとつはっきりしない。そこで、問題の部分の創作のプロセスと周囲の状況とをできるかぎり明らかにすることによって、その正確な理解を試みるのが本稿の目的である。
- イタリア学会の論文
- 1994-10-20
著者
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