イタリア語における冠詞研究(3) : 方角をあらわす名詞を中心として
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概要
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§1 はじめに Tinto, E.の文法書を読んでいると、次の個所があった。"Diciamo infatti : … 《passaggio a Nord-ovest》 e 《il clima del Nord》".即ち、『我々は、実際、次のような伝い方をする。「北西へ向う通路」、「北の地方の気候」』。つまり、Nord-ovest「北西」では無冠詞(以下Nで示す)が、Nord「北」では定冠詞(以下Aで示す)が使われている。このことは、「方角をあらわす名詞(以下「方角名」で示す)の中には、Aがつくものと、Nの状態になるものとの2種類が存在する」ということを示している。けれども、この書物は、これ以上の説明を加えていない。では、何故、このような区別が生じたのであろうか。直観的に、「後者の場合には、単なる方角ではなくて、ある種の限定を伴った地域(つまり、「北の地方」)であるので、Aがついているが、前者では、その限定がないので、Nの状態で現れている」ということが考えられる。けれども、実際の文章にあたってみると、単なる方角をあらわしていると思われるものでも、Aを伴って現れる場合もあるので、この限定の要因だけで、すべてが解決するかどうか疑わしい(本論§1を参照)。Tinto, E.が挙げた2つの例を比べてみると、まず、前置詞が異っている。さらに、前者は(Nord-ovest)と複合語(以下「comp.」で示す)であるのに対して、後者は(Nord)と複合されていない語(以下「simp.」で示す)である。このような要因によっても冠詞の用法は異りはすまいか、と、筆者は考えたのである。筆者は、このほかの文法書もいろいろ調べてみたが、今までの諸研究は、ほとんど、この種の用法にはふれていないように思われる。そこで、筆者は、方角名に対する冠詞の用法を追究してみることにした。§2 目的 筆者は、ここ数年来、イタリア語の冠詞研究を志している。その方法として、(イタリア人が書いたものを主とした)イタリア語文法書(または、その関係の論文)において、冠詞の用法がゆれている場合、あるいは、説明が不十分な場合を見つけて、それを自分でテキストにあたり、また、できるだけ参考文献も読みながら、追究している。筆者は、さきに、「イタリア語における冠詞研究(1)-比喩表現を中心として-」(広島大学文学部紀要、第25巻所収)、「イタリア語における冠詞研究(2)-島の名前を中心として-」(近刊)という小論を発表した。そこで、本稿では、この一連の研究の(3)として、方角名が如何なる条件でAを要求するか、また、Nの状態になるか、を、シンタクス的に、かつ、量的に調べることを目的としている。そして、この種の小さな研究をいくつか試みたのちに、その結果を総合し、冠詞の特質へ、さらにできるかぎり、言語の本質へとせまりたい。
- イタリア学会の論文
- 1967-01-20