ブリガンタッジオ考 : イタリア南部の山賊について
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概要
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この小論を準備していた一九六二年四月、イタリアの上院は、ようやく、MSIなど極石の少数の反対があっただけで、マーフィアについて調査する特別委員会をもうけるための法案を可決した。「ようやく」といったのは、この問題が、ほとんど毎年のように議会で問題にされながら、Zotta 上院議員をはじめるとする南部出身のキリスト教民主党の有力者の強硬な反対にあって、いつも、うやむやのうちに葬りさられてきたからである。今回の議決が、ナポリ大会におけるキリスト教民主党の左転向、社会民主党と連立した新しいファンフアーニ内閣の成立などにみられる。イタリア政局の新しい動きによってもたらされたものであることは、いうまぐもないことである。だが、われわれは、これが、一八六二年でなくて、まさに、一九六二年であることに注目しなければならないだろう。イタリア議会が、最初に、南部諸郡における山賊活動を調査するために、Saffi, Sirtoni, Ciccone, Bixioなどの連中からなる小委員会を任命したのは、一八六二年のことであった。また、Francesco Rizzottoが戯曲I mafiusi di la Vicaniaを書いて、マーフィアという名を有名にしたのは一八六三年のことである。marc-monnierが、最初の科学的な山賊研究を公にしたのもこの頃のことである。そして、それから百年たって今日でも、議会ではマーフィアが大きな問題になっているし、一般の新聞には、恐喝・追剥程度の山賊活動は、余りにありふれているから大きくは取りあげられはしないが、それでも、地方新聞の片隅に、マーフィアなどの行為についての記事のない日はほとんどない。われわれは、ここで、イタリア南部社会における山賊の伝統の根強さを、あらためて痛感するのである。現在発表されている、南部を舞台にした文学・戯曲・映画作品についてみても、たとえ、そこに血なまぐさい山賊、アウトロウが登場してこなくても、迷信と復讐の執念にとりつかれた大多数の、とうてい文明世界のものとは思えない極貧の南部人民、そこに根をはるさまざまな寄生的な秘密結社、それらのものがかもしだす南部社会の特異な空気を知ることなしには、本当に理解することはできない作品が、非常に多いのぐある。この百年間、南部の山賊について、とくにマーフィアのことについては、すでに沢山のことが書かれてきた。科学的な分析もあれば、神話的、伝説的な物語も多い。マーフィアを挾盗としてたたえるものもあれば、その反社会性を弾効したものもある。また、この百年の間には、マーフィアの組織も国境をこえて新大陸にまでひろがり、それに対する関心も、イタリアにおいてだけではなくなってきた。本稿では、brigantaggioをイタリア南部問題の一つとして、それが南部社会においてもつ意味を考察するのであるから、このような国際的なイタリア人アウトロウの組織についてはふれないが、しかし、おなじ南部の山賊といっても、marc-mounierが考察したようなブルボン王朝下のbrigantaggioと、リソルジメント直後の、ガリバルディ軍の残党と反動的なブルボンおよび教皇勢力がまじりあって、極めて複雑な性格をもっていた。いわゆる政治的brigantaggioまた、南部問題の一つとして社会問題化してきた統一イタリアの南部におけるbrigantaggio(一八七〇年以降)、さらには、土地占拠や逆ストライキによってたたかっている農民に対しておそいかかったSalvatore Giulianoの山賊団や、右翼的政治勢力と結びついている現在のマーフィア組織にみられるように、露骨に反動的な性格をあらわしている第二次大戦後の南部のbrigantaggioとでは、brigantiあるいはmafiosiの性格や、そのもつ意味が非常にちがっているのである。それは「南部問題」の一つのあらわれであるbrigantaggioが、南部社会の歴史的進化、そしてまた「南部問題」の展開の中で、その持つ意味を変えてきたからであり、そして、brigantiそのものも、かって、圧政に反抗する人民のアヴァン・ガルドとしての役割をになった時には、なにほどかのロマンティックなカヴアレリア、ルステイカーナをもちえたのであり、現在の機械化されたマーフィアやカモラは、その力は依然として強大であっても、「南部のリナシタ」が広範なcafoniになる運動となっているときに、むしろそれに対立するgalantuominiの利益に奉仕しているかぎり、それは一つの大きな負のエネルギーなのである。この小論では、このような観点から、南部のbrigantaggioの歴史的性格を明らかにして、現在の南部問題にとって、それがもつ意味を考えてみたい。
- 1962-12-30
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