Saccharomyces酵母におけるdas株(有胞子性2倍体a接合型株)と3倍体の新育種法
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概要
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一般にビール醸造酵母, パン酵母は高次倍数体であることが知られており, 実用酵母の育種に高次倍数体を造成する技術は欠かせないものであろう.しかし現在高次倍数株の育成に用いられる方法は, 栄養要求性変異等をもった材料を用いて低頻度で起る不斉接合体を原栄養体回収法により選択分離することにたよらざるを得ない.従ってこの方法は限られた材料にのみ応用出来, 野生種への応用はむづかしい.著者らは, homothallism株の遺伝解析において偶然見出したdas株を用いる新しい3倍体育成方法について提案する.有胞子性2倍体でa接合型を示すdas(diploid a sporogenous)がhomothallismについてHO_α/hO_α hm/hmの遺伝子型をもつ株から約0.5%の頻度で得られる.このdas株は接合型をもつ2倍体であるが直接胞子形成培地に接種することにより良好な胞子形成能を示し, 子嚢の4分子解析により, 各子嚢について2das : 2a(単相株)の分離が見られる.従ってdas株は従来の研究からhomothallismに関してHO_α/HO_α hm/hmの遺伝子型をもつと考えられる.das株はα接合型単相株と直接混合培養すれば, 容易に接合子を形成するが, α接合型単相株とは接合しない.α単相株との間で形成した接合子よりの大型出芽細胞から容易に顕微操作, 又は平板培養により雑種を取り出すことが出来る(Fig.1参照).この雑種の細胞は交配に用いた単相株やdas株よりも明らかに大型であり(第3表参照), よく胞子を形成する(Fig. 1)が胞子の発芽率は悪く(16〜23%)4分子解析を行なうことは出来なかった.しかし生存単胞子培養株における遺伝子符号の分離比からこの大型細胞株は3倍体と判定された.即ち親単相株とdas株の組合せから, 例えばade/ADE/ADE又はade/ade/ADEと推定される標準adenine要求性遺伝子符号に対応する表現型分離は, 5ADE : 1ade又は1ADE : 1ade比又はそれぞれに近い比を示し(第1,2表)雑種を3倍体としたときEmersonの理論に合致する.又この雑種は細胞あたりのDNA含有量を測定し, 両親の単相株およびdas株と比較すれば, 単純な比例関係は見られなかったが, 2培体のdas株より多量のDNAを含有し(第3表参照), これらの結果を総合して雑種は3倍体と判定された.このようにdas株を用いいることにより接合培養から容易に3倍体を分離し得る.このdas型質を育種に用いるためには任意の遺伝的型質とdas型質を組合わせることが必要である.ここでは遺伝解析の際標準遺伝子符号として用いられる種々の栄養要求性突然変異型質を用い, これらとdas型質の任意の組合せ株を分離することを検討した.それにはdas株とこれらの突然変異型質をもつheterothallismの単相株(遺伝子型ho_α hm)の間で2倍体雑種を作り, これから組換型のdas株を分離することを試みた.2倍体雑種の育成にdasを胞子形成, 単胞子分離して得られるα接合単相株とα接合型の標準単相株間の集団交配法による雑種, 又はdas株の子嚢より得られる胞子と標準単相株(a又はα接合型いずれでもよい)との直接spore-to-cell接合法によった.これらの2倍体のdas雑種は4分子解析においてdas株に由来するHO_α遺伝子の存在から期待される分離について同様なhomothallism遺伝子型の対照実験(9.7%)に対し約3倍(30.8%)の不規則分離子嚢が得られる.これら不規則分離型子嚢にはa接合型をもつ有胞子性分離株(suspected das)が単胞子培養株全体の5%, 有胞子性分離株の22.7%の割合で得られる.これは対照実験(2.5%)の約9倍である(第4表参照).これらsuspected dasのうち41株についてその細胞構成を検討した結果, 真のdas株を含むものは31株(76%)であり, 他はα型胞子の発芽, 増殖, 2培体化, 各プロセスの不均衡に由来する有胞子性homothalismの2倍体株とa接合型単相株の混在に由来することがわかった.新たに分離してきたdas株には標準遺伝子符号が組合わされたものが容易に見出される.このようにして組換型dasの利用により任意の遺伝子型をもつ3倍体の育成が可能である.現在までの遺伝子解析の結果だけではdasの遺伝学的背景を説明するには不充分であるが, HO_α遺伝子によるα接合型変換過程の異常にその原因があると考えている.
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