イオン交換樹脂による発酵生産物の安定化に関する研究 : (第1報)ブドウ酒中の酒石の析出防止および酸の調整について
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概要
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ブドウ酒の安定化の問題に関しては, 金属イオン, 酒石および酸度がブドウ酒の安定性に重要な影響をもっているところから, イオン交換処理が広く研究されている.酒石の析出防止については次の三つの方法が行なわれ得る.1.カチオン交換樹脂によりブドウ酒中のカリウムをナトリウムと, またはナトリウムおよびマグネシウムと置換し, 易溶な酒石酸ナトリウムとする.2.アニオン交換樹脂を用いOH型, または有機酸型の置換基で酒石酸を除去する.3.カチオンおよびアニオン交換樹脂を用い, 酒石をHおよびOH基と置換する.アニオン交換処理による研究のほとんどはOH基と酒石酸との置換によるもので, 酒質の変化は避けられない.前の実験で脱色用イオン交換樹脂の再生時の中和剤としてクエン酸がよい結果をもたらしたことから, クエン酸型アニオン交換樹脂を用い酒石酸と置換する方法による酒石の析出防止に対する効果を検討した.供試イオン交換樹脂は苛性ソーダおよび塩酸を用いて交互に処理する方法によって調節され, 1Nクエン酸溶液をもってクエン酸型となし蒸溜水で洗浄した.実験に際しては20mlの樹脂をガラス管に充填して行なった.ブドウ酒に対する低温処理は循環式電子恒温槽を用いて行なった.ブドウ酒中の酒石酸は入槽後(-14℃)50時間までの間に急速に減少し, それ以後も残存酒石酸はわずかながら減少する傾向にはあったが, 120時間以後の濃度変化は僅少で, この時間をもって-14℃における低温処理の時間的目安とした.1.イオン交換樹脂の種類と交換容量との関係.使用したイオン交換樹脂6種類の中, Duolite A-41は中塩基性であり, 残りはいずれも強塩基性である.交換容量は1.2〜2.3meq/lの範囲であり, Duolite A-40,Duolite A-41およびDowex2×8の交換容量は他のものに比べて大きい値に属した.貫流点までの処理量ではAmberlite IRA-402が多いことが示された.Duolite A-40およびDuolite A-41はクエン酸イオンに対する交換容量が大きかったにもかかわらず, 貫流点までの処理量は少なかった.イオン交換容量は貫流点以後の溶離曲線にも関係するので, この点だけで樹脂の良し悪しを述べることはできないが, ここでは貫流交換容量の大きいAmberlite IRA-402を選んで以後の実験に供した.2.ブドウ酒の酸度および品質におよぼすイオン交換処理および低温処理の影響について酒石酸0.211g/100mlを含むブドウ酒を低温処理した場合, 酒石の析出によって0.112g/100mlに減少した.他方, イオン交換処理では条件により酒石酸を任意の濃度に調整できるが, 30v.v.h., 40倍量処理で酒石酸残存量は0.131g/100mlで, これを低温処理した場合0.114g/100mlとなり, 酒石の析出量はきわめて少量におさえることができた.したがって濃度0.13g/100ml程度にすれば酒石の析出する心配はほとんどない.イオン交換法では処理条件を変え, 流速を大きくするか, または処理量を増加させるにともない, 当然その組成は末処理ブドウ酒に近似し, それを低温処理した場合, 酒石の析出量も増加する.イオン交換によるpH変化は0.5以下におさえられた.したがってこの方法によればpHの変動をほとんど変えることなく酒石の析出を防止することができる.一方, 樹脂処理にともなう吸光度変化は430mμでは条件により約25〜50%の範囲で吸光度が降下する.またその貯蔵試験による吸光度増加率は, 末処理のものに比べて小さかった, したがって褐変を事前に防止する効果や褐変ブドウ酒の脱色にも効果があるものと考えられる.イオン交換による処理条件と酒石酸およびクエン酸の交換による品質への影響は好ましい傾向にあった.そして処理条件に関連して酒石酸とクエン酸との比率にも適当な値があることが実験結果から得られた.3.イオン交換樹脂による酸敗酒の処理酸敗したブドウ酒に対しOH型とクエン酸型樹脂をもって比較試験を行なった結果, OH型処理は酸の大部分をOH基で置換し得たが, OH基によるブドウ酒への弊害が条件によって現われるので細心の注意が必要である.一方, クエン酸型は酒石酸との交換をかなり示すが, pHを始めとする酒質変化に対する作用は緩慢であった.しかしながら揮発酸との交換がほとんで行なわれないことは今後の問題として残される.しかしクエン酸型樹脂処理によって, かなりの酸味がよく調和したので, 処理条件を検討すれば酸敗ブドウ酒に対し使用できると考えられる.(結論)クエン酸型イオン交換樹脂によるブドウ酒の処理は, 低温処理と比較しはるかに能率よく行なうことができ, かつ酒質への影響も少なく, 酒石の析出を十分防止し得ることが判った.また褐変を事前に防止する効果もあることが認められた.処理されたブドウ酒特有の爽快な味は酒石酸とクエン酸との交換によって生じたものと考えられ, 今後さらに進んでブドウ酒を基底とした新しい飲料に発展する可能性もあると思われる.
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1969-09-25
著者
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