隔膜酸素電極の特性 : 高粘性醗酵液への適用条件
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概要
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隔膜酸素電極は試料液の物性(密度, 粘度など)に無関係に液中の溶存酸素分圧を測定しうる。しかし液の粘度が増大した場合, 液境膜物質移動抵抗もそれにつれて増大し, それが膜の物質移動抵抗を凌ぎ, 電流値は粘度の増大に伴い減少する。このような現象はカビあるいは法線菌の醗酵液でしばしば経験するところである。一方, 好気醗酵で溶存酸素の測定をおこなう場合, 気泡が電極の膜面に付着し電流値の指示を乱して, 測定を不可能にすることもしばしば経験する。このような現象は液の粘度が増大すると一層顕著になる傾向である。Beckman型式の電極はその構造上気泡付着の欠点が避けにくいため, 醗酵工業での溶存酸素測定に大きな支障となるようである。(1)膜電極の使用にあたって, つねに要求される膜抵抗支配の条件を液の粘性の増大に対してどのように満たすべきか-膜の種類の選択-および(2)上記のごとき気泡付着をさけるために電極の構造はどのような型式が望ましいか。この二点について検討することが本研究の目的である。まず液境膜物質移動抵抗に及ぼす液の粘性の影響を種々の濃度の蔗糖溶液を用いて検討した。すなわち一定酸素分圧下における電極の定常電流値より液境膜物質移動係数を求め, かつ液境膜物質移動抵抗と膜の物質移動抵抗との比を, 操作条件を示す電極面におけるレイノルズ数に対してプロットし, 使用する液の粘性などに対応して電極に被覆すべき膜の種類を選択できるよう試みた。さて, 種々高分子隔膜における酸素の透過係数, P_mは電極法により簡便に求まるから, 前述の比が0.05程度で, 隔膜の物質移動抵抗が支配的となり, 定常電流値は液の物性と無関係に液存酸素分圧に比例する結果がえられた(Table 1参照)。少し敷衍すると, 両抵抗の比を1milのTeflon FEPの隔膜を使用し蔗糖濃度が0.59から2.5mole/l(粘度が約2から85c.p.)まで変化した場合どう変わるかを比較したのがTabel 1である。計算法は, 庶糖濃度が2.5mole/lの場合を例として示したが, 既知のkm値を用い, 定常電流値i_<00>を測定して電極近傍での液境膜物質移動係数k_Lを(2), (3), (5)式から計算する。 Fig. 5はこの方式から求めたものであり, パラメーターは電極面における液の平均流速である。k_Lはμ^<-0.72>に比例した。Fig. 6は膜の選定を容易にするために便利であるが, これはFig. 5にもとづき, 横軸に電極面を流動する液のレイノルズ数をとり, 縦軸に物質移動抵抗の比をとったものである。隔膜の物質移動抵抗は1milのものについての値であるこにい注意を要する。r_L/rm=0.05を膜の選定の基準とし, P_mの値を目安として最も適当な膜が選定できる。Fig. 6の中に示したようにPmとk_Lの温度依存性は15〜37℃の範囲ではほぼ同程度であるから醗酵工業では, 温度をとくに考慮しなくてもFig. 6は適用できると考えられる。好粘度液中で電極を使用する際, 一般に厚い隔膜あるいはPmが低い隔膜を用いる(Fig. 4参照)。隔膜が厚くなり, Pmが小となるに従って電極の応答も遅くなり, かつ電流値i_<00>も減少する。後者に対する対策は電極を設計する際陰極の面積Aを大きくとればよい。つぎに, 気泡付着の現象をBlasticidin S醗酵液を用い容積1 literのシリンダー中に気泡を吹き込み, Beckman電極とMackereth電極の応答を検討した。Beckman電極は陰極面が上昇気泡に垂直に位置していると同時に陰極周辺に凹みがあるため(Fig. 7参照), 気泡がそこへ付着し電極の応答がそれによって大きく乱れた, 一方, Mackereth電極は円筒状の検出面を備えており, かつ気泡の上昇方向と平行に位置したため, 気泡の影響をうけず滑らかな応答を示した(Fig. 8参照)。また, 電極の陰極面積は非常に大きいため, 高粘度液中においても十分な電流値を観察することができた。
- 1969-06-25