リグニンの呈色反応機構の研究(IV) : 広葉樹リグニンのCross-Bevan呈色反応(Cl_2-Na_2SO_3)について
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概要
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リグニンのCROSS-BEVAN反応の呈色機構を研究するため, 一連の関連あるモデル化合物18種類を合成し, これらの呈色の有無を検討し, その結果について若干の考察を行つた。(1)12種の塩素を含有するtrioxybenzene誘導体の亜硫酸ソーダに対する呈色の有無から, リグニンの呈色に必要な条件として, 次の4項目を推定した。(a)呈色部はリグニン分子の末端位のsyringyl核にある。(b)この側鎖のα位にはカーボニル基の存在を必要とする。(c)syringyl核の水素は, 2コとも塩素で置換されなければならない。(d)syringyl核の全メトキシル基は離脱して, ここにフエノール性水酸基が生じなければならない。(2)これ等の呈色条件を更に検討するため, ベンゾール核に結合したメトキシル基を含むモデル化合物の塩素化時のメトキシル基の離脱の有無をしらべ, またブナ木粉, それから単離したメタノール・リグニンとアルカリ・リグニンの塩素化物, gallic acid, syringic acid及びtrimethylgallic acidの塩素化物, 更にdichlorogallic acid及びtrichloropyrogallolの各試料について, 呈色時の可視部の吸収スペクトルを比較した。塩化第二鉄による呈色試験の結果, syringic acid及びtrimethylgallic acidからは塩素処理によりメトキシル基が離脱して, 3価のフエノールが生成することが推定された。一方可視部の吸収スペクトルを測定した結果からは, これ等の吸収曲線の間に若干の差異が認められる場合もあつたが, この事実は塩素処理によつてえられる生成物の多様性を示すものと推定され, 前者の呈色条件を否定するものではない。(3)CROSS-BEVAN反応における塩素処理の意義としては, メトキシル基の離脱及び結合塩素の+I効果に基づく水酸基の水素の陽動化が考えられる。これを確めるために, 同じelectron attracting groupに属するニトロ基(+E効果)を有するtrioxybenzene誘導体の亜硫酸ソーダに対する呈色性を検討した結果, dinitrogallic acid ethylesterが呈色のpositiveであることを認め, 前記の塩素の作用機作に対する推定を裏書きすることが出来た。(4)RUSSELの所謂合成リグニンはCROSS-BEVAN反応がpositiveであると報告されているが, この事実は本反応の呈色機構に関する著者等の見解と矛盾するので, これを合成し追試した結果negativeであつて, RUSSELの観察の誤りであることがわかつた。(5)著者等が合成した18種類のモデル化合物のうち, 4,5 or 4,6-dichloropyrogallol-1-methylether(VI), trichloropyrogallol-1-methylether(VII), dichloro-4-methylgallic acid methylester(IX), dichlorosyringic acid(X)及びω-dichloro-2,3,4-trioxy-5,6-dichloroacetophenone(XV)の合成については, いずれも既往の文献に認められないものである。
- 1955-01-25
著者
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