フードシステムの再編と農業地域構造の変貌(<英文特集>1990年代における日本の経済的地域構造の変貌)
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概要
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本論の目的は,1990年代までのわが国のフードシステムの再編過程を地理学的な観点から検討し,その問題点を指摘するとともに,求められるフードシステムについて展望することである.また,その過程で,フードシステムの再編による農業地域構造の再編にも触れた.野菜を中心に見た1990年代までのわが国のフードシステムの地理的特徴は,地域・地方的なスケールのシステムから全国的なスケールのそれへの再編成ということができる.自県や自地方を中心として完結性の高かった野菜の供給体系(フードシステム)は,主産地形成の推進や輸送技術・輸送体系の整備,消費スタイルの変化などにともなって,東京を一つの極とする全国的な体系へと変貌した.言い換えれば,巨大都市の大規模需要に牽引された野菜の供給体系ということができる.その過程で,出荷を担う産地にも大きな変化が見られた.第1には東京への出荷を担ってきた関東地方の主要な産地県が出荷を安定的に伸ばしたこと,第2には早くから域外の消費地への出荷を行っていた長野県も安定して出荷を伸ばしたこと,第3には北海道や九州などの遠隔の産地が域外の大市場への出荷を通じて成長してきたことなどである.その一方,北陸や近畿,中国などの産地は急速に野菜供給地としての従来からの特質を失ってきたことが明らかになった.さらに1990年代後半以降は,全国的なスケールから国際的なスケールヘとの再編が加速する時期であった.この時期,わが国の野菜の輸入量は年を追って増加し,中国やアメリカ合衆国,ニュージーランド,韓国などが主要な対日輸出国としてあげられる.このような再編の過程で,様々な問題点も表出してきた.先に示したような出荷県間の格差が拡大しているということに加えて,消費者サイドからみても,いくつかの地理的課題が現れている.第1は,大分市と東京都の市場の卸売価格の比較で例証した価格の地域間格差の問題である.大分などローカルな市場では,自県産のシェアの高い品目ほど東京のそれよりも価格が安い反面で,自県産シェアが下がり北海道などの遠隔産地からの入荷シェアが高い品目では価格は東京のそれと拮抗し,東京の方が安い品目も見られた.第2は,松山市のスーパーで例証した高付加価値商品の調達の問題である.より高値が期待される大都市市場への出荷が優先される中で,地方の都市の卸売市場では充分な量の高付加価値商品が確保できないということが認められた.以上の諸点は大量生産・大量消費を軸としたフードシステムの構築を目指してきた中で顕在化したものである.確かに,このシステムは大きな市場である東京や大阪などの大都市では効率的で潤沢な野菜の安定供給を享受できるシステムであり,その過程で市場が必要とする大量の出荷量を賄える産地が成長した.しかし,地方の中小都市ではそのシステムが必ずしも効率的には機能していないこと,地域間に格差をもたらしていることに,地理学者は目を向けるべきである.大規模なシステムの欠点が各所で指摘されている今,新たなフードシステムが希求されている.それは,規模の経済を追求する形態のものではなく,多様な需要に応じて必要な食料を効率よく供給するものでなくてはならない.その意味では,ネットワーク型の供給体系が想定されるかも知れない.また,その文脈の中で,多様で少量の需要を効率的に満たす出荷者として,大規模システムの中では淘汰される中小の産地が再評価される.
- 2003-05-31
著者
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