他動詞文の結果キャンセルについて
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概要
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本発表は他動詞文の結果キャンセル(「燃やしたけど燃えない」「切っても切れない」的表現)の現象を論じた。この問題を論じた主な先行研究の概要と問題点を検討した上で,以下のような基本的方針にたって分析にあたった。(1) 動詞が語彙的に有する意味と文の意味・解釈は明確に区別されるべきである。(2) キャンセルのしやすさを動詞の種類ごとに比較するのではなく,同一の動詞を述語とする文にどのような要因が加わることによってキャンセル可能性がどのように影響を受けるかを重視する。(3) (2)の作業を通して,このタイプの表現が最も基本的にどのような性質のものなのか(何を言おうとするものか)を明らかにする。(4) この現象は日本語の他動詞文の多義性に関わる諸問題の中で有意義に位置づけられるべきである。(5) 言語間の対照を考える際,現象の振る舞いの異なりが同一の原理の下に支配されているとみるべき保証はない。結果として,このタイプの表現は,主体の結果達成の意図を事実上の必要条件としつつ,「そうしようとしてもそうすることが不可能(あるいは困難)である」という解釈がしやすければしやすいほど成り立ちやすいことが明らかになった。また,日本語の他動詞文には,「状態変化主体の他動詞文」や「介在性の他動詞文」のように,全体で部分を言い表したり,部分で全体を言い表したりする転義(メトニミーによる意味拡張)が広範に見られ,この現象もそのような全体的傾向の中に位置づけられるものである。
- 2001-03-31