鷺流狂言台本保教本の待遇表現について : 対称代名詞「オマエ」を中心に
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概要
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狂言台本の国語学的研究が,これまで大蔵流・和泉流の狂言台本を中心になされてきたという事は否めない。しかし本発表では,江戸時代にこれらの流派と並んで江戸幕府等に保護されていた鷺流狂言の内,一八世紀初頭に筆写された鷺流狂言台本『保教本』(以下『保教本』)を取り上げ,狂言の資料的特性を窺うに最も有益であると思われる待遇表現の観点から『保教本』の資料的性格及び国語史の中での位置づけについて考察した。大蔵流・和泉流の狂言台本のうち,最古本といわれる『虎明本』・『天理本』において最も高い待遇価値を持つ対称代名詞は「コナタ」である。また,鷺流仁右衛門派の狂言台本である『延宝・忠政本』や『保教本』と同じ伝右衛門派に属する『宝暦名女川本』においても,最も高い待遇価値を持つ語は「コナタ」である。それに対して『保教本』における対称代名詞の待遇価値を調査すると,最も待遇価値の高い対称代名詞は「オマエ」なのである。近世前期上方において対称代名詞「オマエ」(以下「オマエ」)が,最も高い待遇価値を有していたことは,周知の事実である。『保教本』における「オマエ」は,近世前期上方で使われていた「オマエ」を取り入れたものであると推定されるのである。『保教本』とそれ以前の他流派の狂言台本とを比較して,このような相違が見られる要因の一つとして,『保教本』がその時々の言葉を詞章に取り入れるという性格を持っていたことが考えられる。事実,「花折新発意」の末尾に記されている「云合仕様傳」には「第一世上普諸国一同ニ上下共ニ遣フ言葉ヲ能知リテ工夫シテ吉」との記述が見られる。『保教本』では,広く世間に通用している言葉を熟知して工夫して用いてもよい,としているのである。『保教本』における「オマエ」の使用も,このような筆写態度によるものと捉えることが出来るであろう。この事は『保教本』における待遇表現上の興味深い事実であり,広く狂言台本に書き留められた言葉を考察していく上でも注目されるべき点であると考える。
- 2000-09-30
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