ペロブスカイト触媒担時ZrO_2/SiC繊維を用いたDPFの特性
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
ディーゼル車は燃費及び耐久性に優れ,大型バス,トラック等を中心に幅広く使用されている.しかし,ディーゼルエンジンからは多量のPM(particulate matter:粒子状物質,主は炭素粒子)やNOxが排出される.PMは発ガン性が疑われているほかに花粉症や喘息との関係が指摘されている.また,NOxは光化学スモッグや酸性雨の原因物質でもある.このような状況に鑑み,環境省は平成15年施行の新短期排ガス規制の中で,PMは平成6年規制に比べおよそ1/4以下に,NOxは同年比40%以上の削減を行う方針を打ち出している.PMを除去するために排ガス系に除去装置(DPF:dieselparticulate filter)を設置する研究は20年以上前から行われてきた.DPFのフィルター材料としてはセラミックスのハニカム式や多孔質フォーム式が検討されたが,いずれも目詰まりや耐熱性の問題を解決できず実用化にはいたっていない.近年これらの問題を解決するため,熱応力で破損することが少ない,炭化ケイ素系繊維のフェルトを用い,これを金網ヒーターでサンドイッチして蛇腹状に成形した装置が開発された.フェルトによりPMを捕集し,ヒーター加熱で酸化除去して再生する方法である.しかし,この方法は捕集と再生を交互に行うため2系列を要し,大型かつコスト高となる.また,NOxの除去能力がなく,排ガス浄化の効果が不十分である,一方,ディーゼルエンジン排ガスからNOxを分解あるいは還元により除去,無害化する触媒についても研究が行われてきた.ガソリンエンジンでは燃料を燃焼するのに等量の酸素が供給されるよう吸入空気が制御されており,Pt/RhやPd/Rh系に代表される三元触媒を用いてHC,CO,NOxの90%以上の同時低減が可能になっている.しかし,ディーゼルエンジンは理論空気量で燃焼させるガソリンエンジンとは異なり,排ガス中に大過剰の酸素が存在するうえに還元剤となるCO,HCの含有量が非常に少ないことから,三元触媒によるNOxの還元浄化は期待できない.一方,還元剤を用いないNOxの浄化方法としては,低温で高い直接分解活性を示すCu/ZSM-5が報告されたが,耐熱温度が600℃以下であるため実用化にはいたっていない.還元剤を別途導入するNOxの浄化方法としては,アンモニアや尿素を還元剤に用いる方法があり,自動車の排ガス中で実用上十分な除去率を示している.しかしながら,自動車での使用を考えたときアンモニア車載についての安全性や補給の問題等課題は多い.ディーゼル排ガス浄化において最も有効な反応として,PMの酸化とPMによるNOxの還元が同時に進行するPM-NOx同時除去反応が提唱されている,本研究ではPM除去における目詰まりや耐熱性の問題を解決し,更にコンパクトで高性能なPMとNOxを同時除去できるDPFシステムを開発するための基礎的検討を行った.本研究で検討した新システムの考え方は以下の通りである.PMの捕集効率向上と熱応力による破損回避を狙い,耐熱性セラミックス繊維材料を用いて目の粗い不織布を製造し,フェルト状に加工する.この繊維の表面に触媒を担持させることで,触媒表面積を大きくすることができ高性能が期待できる.触媒には,A,Bサイトの置換元素の種類と量を選択・制御することにより,PMとNOxの同時除去触媒として働くことが示されているペロブスカイト型複合金属酸化物を用いた.触媒を担持させるセラミックス繊維材料には耐熱性と耐アルカリ性が要求される.当初の候補として耐熱性に優れるSi-Zr-C-O繊維(宇部興産製チラノ繊維,ZMIグレード)を挙げたが,本研究で取り上げた複合金属酸化物触媒の候補の中にはアルカリ金属であるカリウムが含まれるため,耐アルカリ性の点で問題が出ることが予想された.Ishikawaらはセラミックス繊維の製造条件を検討することにより,繊維内部から表面に向かってナノメータースケールで酸化物濃度が増加する傾斜構造をもつZrO_2/SiC繊維を開発した.ZrO_2/SiC繊維はZrと酸素が繊維表面にリッチに分布する傾斜構造をもち,SiC系繊維よりも格段に優れた耐アルカリ性と耐酸化性もつことから本研究の触媒担持用繊維材料に採用した.DPFとしての効率を高めるためには,触媒の表面積を大きくしPMと触媒の接触効率を上げなければならない.そのためには触媒を繊維表面に薄くコーティングすることが必要である.本研究ではZrO_2/Sic繊維表面への各種触媒担持方法を検討し,耐酸化性や耐熱性に優れた高効率でPMとNOxの同時除去ができるDPFの特性について検討した.
- 2003-11-01
著者
-
上田 渉
三菱レイヨン株式会社中央技術研究所
-
上田 渉
北海道大学触媒化学研究センター
-
上田 渉
北海道大学
-
大塚 昭彦
(株)超高温材料研究所
-
寺岡 靖剛
九州大学総合理工学府物質理工学専攻
-
寺岡 靖剛
九州大学大学院総合理工学研究院
-
寺岡 靖剛
九州大学大学院総合理工学府物質理工学専攻
-
柴田 耕司
(株)超高温材料研究所
-
大井 智積
(株)超高温材料研究所
-
住友 秀彦
(株)超高温材料研究所
-
押原 建三
山口東京理科大学基礎工学部
-
柴田 耕司
(株)超高温材料研究所:(現)宇部興産(株)宇部研究所
関連論文
- ヘテロポリ酸触媒を用いたピルビン酸エステルのアシル化によるα-アシロキシアクリル酸エステルの合成 (第105回触媒討論会B講演予稿 重合と合成)
- ヘテロポリ酸触媒を用いたピルビン酸エステルのアシル化によるα-アシロキシアクリル酸エステルの合成
- 触媒調製プロセスがハイドロキシアパタイト触媒のCa/P比および表面塩基性に及ぼす影響
- 新たな陶磁器用金呈色顔料の開発
- ペロブスカイト触媒担時ZrO_2/SiC繊維を用いたDPFの特性
- Si-ポリマー法ならびにCVD法による3D-C/C複合材料への耐酸化SiCコーティングの形成とその高温H_2O, CO_2中での耐酸化性
- CeO_2 / Ag系金呈色顔料の発色条件の検討
- La-K-Mn系ペロブスカイト型酸化物のディーゼルパティキュレート燃焼特性向上に関する検討
- アルミナ細孔内外へのLaMnO_3の選択担持手法の開発とその触媒特性
- ペロブスカイト型酸化物の固体化学と触媒機能
- 混合導電体セラミックス膜を用いる高温での酸素分離
- 7-332 独立大学院物質理工学専攻におけるカリキュラム編成の取り組み : 多様な出身分野からの学生の受け入れと基礎・専門分野の充実を目指して((15)工学教育システムの個性化・活性化-IV)
- 粒子径を制御したセラミックスへのアルカリケイ酸塩添加によるコーティング膜の緻密化
- 湿式法により鋼板上に作製した複合セラミック膜の熱安定性と機械的特性
- 担体細孔内を反応場としたペロブスカイト型酸化物微粒子触媒の調製
- 無機材料を用いたエネルギー環境技術の研究
- 逆均一沈殿法による高表面積ペロブスカイト型酸化物の合成と触媒特性
- 3I09 急速水酸化物生成法による La-Mn 系ペロブスカイト微粒子の合成
- 2I09 チタニア/ジルコニア積層超薄膜の二次元ゾルーゲル合成
- 2B08 酸化スズ修飾メゾポーラスシリカの合成
- 混合導電性ペロブスカイト緻密膜を用いたNo_x除去メンブレンリアクター
- 酸化物半導体修飾メソポーラスシリカの調製とセンサ材料への応用 (Proceedings of the 29th Chemical Sensor Symposium,September 13〜14,1999〔和文〕)
- 有機無機複合組織体の形成と無機物質合成への応用
- メソポーラスシリケート合成法の"ソフト"化
- Noxとディーゼルパティキュレートの同時除去反応機構
- 分子膜-金属ポリ酸イオン複合組織体の調製と特性
- 分子膜を利用した有機-無機ナノ複合組織体の構築
- 高表面積ペロブスカイト型酸化物La_Sr_MO_3(M=Co, Mn)の調製とメタンの完全酸化活性
- Cu/Ru同時置換ぺロブスカイト型酸化物の触媒活性
- NOx-ディーゼルパティキュレート同時除去用La-K-Cu-V酸化物の活性相
- 新しい脱硝触媒
- 酸化物触媒材料--銅系複合酸化物の触媒作用 (異常原子価の化学)
- 混合導電性ペロブスカイト型酸化物を用いる酸素選択透過膜の開発(第2報) : 多孔性支持体上へのペロブスカイト型酸化物膜の作製
- 混合導電性ペロブスカイト型酸化物を用いる酸素選択透過膜の開発(第1報) : ペロブスカイト型酸化物多孔性支持体の作製
- シラン化学蒸着法によるゼオライトの気体吸着特性制御 (ゼオライトの化学とその応用) -- (修飾)
- La1-xSrxCo1-yFeyO3ペロブスカイト型酸化物の酸素透過能
- クエン酸錯体法によるマンガン系ペロブスカイト型酸化物の調製とその酸化触媒活性
- V-P系複合酸化物触媒の表面組成とブタン酸化能に与える影響 (第62回触媒討論会特集号(予稿))
- ペロブスカイト型複合酸化物触媒の設計 (第61回触媒討論会特集号〔予稿〕)
- バナジウム-モリブデン系複合酸化触媒の同時脱硝脱硫活性 (第60回触媒討論会特集号〔予稿〕)
- 欠陥ペロブスカイト型酸化物La1-xSrxCoO3-δの酸素収脱着挙動と酸化触媒能
- ペロブスカイト型酸化物の酸素収脱着挙動と触媒作用
- 希土類複合酸化物の触媒作用 (希土類元素化合物の触媒作用)
- Zr添加超微細結晶フェライト系ステンレス鋼の機械的性質 : II. 室温における引張強度と耐衝撃性
- 一方向凝固Al_2O_3/YAG共晶コンポジットの高温腐食挙動
- メタン燃焼雰囲気におけるCVD-SiC被覆したC/C材の酸化挙動
- 混合導電性ペロブスカイト型酸化物を用いた酸素分離膜 (特集 希土類(レアアース)セラミックス)
- C/C複合材料の高温酸化防止対策と熱損傷評価
- Sr-Al-Nb系ペロブスカイト型酸化物の金属イオン規則配列構造制御と光触媒特性
- 複合酸化物触媒の構造と接触酸化反応に関する研究
- 主催行事報告 : 札幌で「触媒サミット」開催
- 選択酸化触媒材料の広がりと高次機能化
- 新規オクタヘドラルモレキュラーシーブ--結晶性モリブデン-バナジウム複合酸化物
- 選択酸化に特異的に高活性なMoV酸化物結晶相の触媒化学
- 結晶性Mo-V複合金属酸化物触媒の生成機構解析
- 討論はつづく
- テンプレート法による金属酸化物ナノチューブ合成を応用したナノ・マイクロ構造体触媒の開発
- 有機構造体テンプレートを用いた複合金属酸化物の空間制御 (特集/注目される触媒開発技術の話題)
- Ru/Al_2O_3触媒を用いたCO選択酸化反応における低濃度NH_3による被毒
- 第5回国際酸化触媒会議が終わって
- 結晶性Mo_3V_1O_x複合酸化物触媒の物性とアルカン選択酸化活性
- セリア系酸化物担持貴金属触媒の粒子径の評価
- 結晶性複合酸化物にみるアルカン選択酸化触媒機能
- Bi-Mo-O複合酸化物のアリル酸化触媒能
- Chemistry Letters
- 新風に期待
- Photocatalytic Properties of Ordered Double Perovskite Oxides
- 北海道大学触媒化学研究センター上田渉 研究室 : 金属酸化物触媒の設計と機能の探査
- 余剰麻酔ガス処理装置
- 担持金属酸化物触媒によるベンゼンのオゾン酸化反応 (第107回触媒討論会B講演予稿)
- Zr添加超微細結晶フェライト系ステンレス鋼の機械的性質 : I. メカニカルアロイング法による組織制御
- 1M-03 ゼオライト触媒を用いた実験教材に関する研究と実践(一般研究発表(口頭発表))
- TOCAT6/APCAT5会議開催報告
- デシカントロータの水蒸気吸着等温線と動的除湿性能との関係
- 担持金属酸化物触媒によるベンゼンのオゾン酸化反応
- モリブデン酸化物の多様な構造を活用した酸化触媒の創製
- 混合導電性ペロブスカイト型酸化物を用いた酸素分離膜
- 混合導電性ペロブスカイト型酸化物を用いた酸素分離(酸素分離・製造技術の最新動向)
- 固体触媒は美しい複雑性物質 : 生み出すための新しい合成方法論が必要
- 結晶性Mo-V系酸化物選択酸化触媒のビルディングブロック合成
- Micro Review 環境プロセス触媒の設計と合成 (研究特集 グループ研究紹介&リサーチレポート)
- フルスケール活動
- 結晶性Mo–V系酸化物選択酸化触媒のビルディングブロック合成
- PdとLaMnOの相互作用を利用した高活性自動車排ガス浄化用触媒の開発 (研究特集 グループ研究紹介&リサーチレポート)
- 構造を制御したPtおよびPt-Rh粒子の調製とTiO_2への高分散担持
- 組織とシステムと人材育成
- 結晶性Mo-V系酸化物選択酸化触媒のビルディングブロック合成