細胞同調培養と荷電密度による子宮内膜増殖症の研究
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
子宮内膜増殖症は, 一般にEstrogen(E)刺激が引き金となり, 内膜増殖カが起こり, その変化は主に腺細胞の質的, 量的増加によるものであり, 内膜表層組織は比較的一定し, 著しい変化を認めがたいとされている.そこで子宮内膜増殖症の本態を究明するため, 子宮内膜腺細胞の初代培養を行い, 次にそれの同調培養を試み, それら培養腺細胞について細胞電気泳動実験法を用い, 細胞表層荷電密度の変化を追跡することにより, 増殖セルサイクルの各期における各種ホルモン剤の影響, ならびに標的細胞としてみた場合の内膜腺細胞の特異性等について研究した.結集は次の如くである.(1)細胞分裂の時期との関榛:M期(分裂期)には細胞電気泳動度が最高となつた.このことは細胞増殖と表層荷軍の間に明らかな相関関係があることを示唆している.(2)in vitroにおけるホルモン剤の影響:培養内膜細胞の細胞電気泳動度は, E添加によりS期(DNA合成期)において著明た増加を示した.またProgesterone(P)添加によつてG_1期(DNA合成準備期)では著明な抑制を示した.この事実は, Eによつて細胞増殖のエネルギーが蓄積されるが, Pは, 増殖, 分化の分岐点, すなわちG_1期のdichophaseに作用し, 増殖のエネルギーを分化のそれに転換するためのものと思われた.(3)標的細胞としての内膜細胞の特異性:例えば肺癌培養細胞についてE, Pの作用を検討したが, 一定の傾向は認めなかつた.したがつて(2)の事実は, 内膜細胞に特異的なものであり, 内膜細胞は, これらのホルモンの標的細胞であることは明らかである.以上の結果より, Eが子宮内膜増殖症においては, おそらくその発症の引き金となるものと思われる.またPが著しく細胞電気泳動を抑制することより細胞学的にも内膜増殖症に対しPが抑制的に作用することが明らかであり, 黄体ホルモン療法にある程度の理論的根拠をあたえるものと考えられる.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1981-08-01