腟式子宮全摘除術における基靭帯無結紮切断法の妥当性について
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概要
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子宮旁結合織は過去において常識的に血管の多いもの, 手術時に出血し易いものとされ, 臨床家が大きな不安感をもつて多数の結紮を行ない, そのため却つて他の血管或は尿管を損傷したり, 後日結紮糸脱出及び息肉腫形成がしばしば見られた. 著者は前報において子宮旁結合織特に基靭帯内に存在する血管の形態を報告したが, これに基いてわが教室において行つている腟式子宮全摘除術の際の基靭帯無結紮切断法の妥当性の根拠を検討した結果を報告する. 研究材料: 子宮頸癌患者に行つた腟式広汎性子宮全摘除術(明石術式)により得た旁結合織のうち, 癌浸潤及び炎症性硬結のふれない11側(8例)を用いた. 実験方法: 旁結合織をその走行に対して直角に組織切片を作成し, これを印画紙に拡大焼付け, 鏡検しつつ動脈, 静脈の区別を印して追求し, 血管の走行図を描写した後, 手術の際の切断面を想定した. 1. 旁結合織の切断部位が子宮側縁から, 骨盤側に向つて移動するに従つて切断面における血管総内面積及び血管の内径が大きくなり, その傾向は動脈に比較して静脈に著明である. 2. 切断された血管からその出血の危険性の有無を血管の内径の大きさで区分し, 動脈では内径0.4mm以下を安全血管, 0.4〜0.8mmを要注意血管, 0.8mm以上を危険血管とし, 静脈では0.8mm以下を安全血管, 0.8〜1.2mmを要注意血管, 1.2mm以上を危険血管と仮定した. 動脈: 子宮側縁では危険側なく, 側縁から0.5cmの部位で1側, 1.0及び1.5cmの部位でそれぞれ2側, 2.0cmの部位で3側の危険側が見られた. 静脈: 子宮側縁及び側縁から0.5cmの部位で危険側なく, 1.0及び1, 5cmの部位でそれぞれ3側, 2.0cmの部位で4側の危険側が見られた. 3. 腟式子宮全摘除術に際しては子宮動脈本幹を結紮すれば子宮側縁に近接して基靭帯を結紮せずに切断する方法は安全である. 4. 斯くの如く, 基靭帯無結紮切断法によつて術式の単純化, 及び手術時間の短縮を計り, その結果手術侵襲が軽減され, 後日の結紮糸脱出, 息肉腫形成が防止できる.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1966-03-01
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