妊娠時の子宮頸腟部上皮の異形成性変化とAndrogen環境(尿中17-Ketosteroids排泄値)について
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概要
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近年, 子宮頚腟部上皮の増殖性・異形成性変化と, その内分泌学的因子についての研究が注目されている. 妊娠時には組織学的にいわゆる前癌状態といわれる基底細胞過活動や, 異形成性表皮化あるいは上皮内癌像が高頻度にみられる. 妊娠は一種の内分泌異常状態が比較的長期にわたって持続する期間であるが, 著者はその内分泌学的因子の1つとして体内性Androgen環境と頚腟部上皮変化とに何等かの関連がみられるのでないかと考え, 尿中17-Ketosteroids(17-KS)を測定し, 上皮変化との検討を行った. 212例の妊婦および100例の非妊婦について子宮頚腟部の組織学的検索を行い(各例とも約半数には腟鏡診を併用), 上皮に増殖性・異形成性変化が認められた12例(変化群)と, なんら著明な変化を認めなかった12例(不変化群)について尿中17-KS測定を行った. なお妊娠の経験のない健常非妊婦3例についても測定し対照とした. 尿中17-KS測定方法は, わが教室で行っている4段階水解法(古賀法)を用い, 総量, 抱合比(遊離型, Glucuronide型, Sulfate型, 不明結合型), 分画値(Alumina管, Chromatography, Zimmermann反応)について測定した. 尿中総17-KSは妊娠例は非妊例よりも増値を示し, 妊娠月数の進行とともに増加をしめした. 変化群は不変化群よりも総17-KSは高値を示した(変化群平均8.21±2.24mg/日, 不変化群平均6.43±1.60mg/日). 抱合比では変化群は遊離型かやゝ高比を示し, Glucuronide型は低比を示した. Sulfate型, 不明結合型には特別な傾向はなかった. 分画値においては変化群は不変化群より各分画値ともおおむね高値を示したが, ことに両者間に差がみられたのはIV分画およびVI+VII分画であった(VI分画は変化群平均値が非妊婦平均値より高値を示し, 不変化群では低値を示した. VI+VII分画は変化群平均値が非妊婦平均値の96%の増値, 不変化群では56%の増値を示した). 結論 妊娠時には基底細胞過活動や増殖性・異形成性表皮化が高頻度に認められる. このことは妊娠時の母体の特殊な内分泌代謝によって惹起されると推察される. 子宮頚腟部上皮は種々の内分泌因子の協調的あるいは拮抗的作用により形態学的に, あるいは組織化学的に複雑な影響を受けていると考えられるが, 体内性Androgenに関して尿中17-KS測定の結果、上皮の変化群にAndrogen物質が高値を示した. 体内性Androgen 亢進の環境が上皮の異形成性変化の主因をなすと結論することはできないが, 妊娠時には高Estrogen環境と協調して上皮基底層の増殖をきたし, 他方ではAndrogen が上皮細胞の分化角化を抑制する作用をもつために異形成性上皮変化をもたらすものと推察される.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1963-12-01
著者
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