妊娠中毒症における抗生剤体内動態について
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概要
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腎障害時の化学療法, 特に腎毒性を示す抗生剤の使用方法については従来から注意が喚起されてきた. しかし妊婦においてしばしばみられる腎障害時に, 臨床上使用されている抗生剤がどのような体内動態を示し, 腎に対して加何なる障害を及ぼすかについて検索した成績はない. 本論文はかかる点を解明することを目的として妊娠と化学療法との関係を腎機能の立場から検索し, 妊娠中毒症時の化学療法のあり方を検討した. 臨床実験では健常人, 正常妊婦, 妊娠中毒症妊婦, 子宮頚癌腎機能障害例について, 体内代謝産物をつくりにくく, 腎集中性の高い, 蛋白結合率の低い3薬剤, Kanamycin, Gentamicin, Cephaloridineを用いcreatinine clearance (以下Ccr) を指標として実験を行い, さらに動物実験では妊犬, 非妊犬を用いて抗生剤の連続投与の影響を観察し, 次のような結果をえた. 1 正常妊婦は健常人と比べ, 血中濃度半減期 (以下T/2) はやや短縮するが, 尿中回収率はほぼ同様の値を示し, 3種薬剤とも通常投与量では腎毒性, 薬剤の蓄積傾向は窺われない. 2 平均Ccr 73.9ml/minを示す妊娠中毒症軽症における抗生剤の血中濃度は健常人, 正常妊婦に比べやや高い. T/2は正常妊婦の約1.5倍に延長し, 尿中回収率は正常妊婦の2/3〜1/2に減少している. 抗生剤投与の際には健常人の通常投与間隔の1.5倍の間隔が望ましい. 3 Ccr 30.0〜60.0ml/minを示す子癇前症および子癇例では血中濃度は高く, かつpeakは遷延し, T/2は健常人, 正常妊婦の2〜5倍を示し, 尿中回収率はそれらの1/3〜1/10に著減しており, その程度はKMにおいて著明である. かかる症例での抗生剤投与間隔は常用量において健常人の2〜3倍に延長する必要がある. 4 Ccr 50.0ml/min以下の子宮頚癌腎機能障害例においてはT/2は健常人の3倍以上に延長し, 尿中回収率はそれの1/5以下に著減している. 5 抗生剤連続投与後の妊犬のCcrは非妊犬における20%の低下に比べ, 50%の低下を認め, 妊犬の方がより腎機能障害の程度が強い. なお初回筋注時の妊犬の血中濃度は非妊犬に比べやや高く, 妊犬においてpeakの遷延, T/2の延長を認め, 連続投与後の成績ではT/2は非妊犬で2倍, 妊犬で3倍に延長し, 尿中回収率も妊犬において減少の程度が強い.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1972-06-01