産婦人科領域に於ける血清Phosphataseの研究
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概要
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同位元素の發見に伴い生體内に於ける燐の意義は從來考えられていたよりも非常に重大となり,從つて諸種の生理的機能を營むための燐酸エステルの水解及び合成を觸媒する酵素即ちPhosphatase(以下P-aseと略記す)の存在意義も又著しく重大となり各科領域に於ける本酵素も研究も著しく進展して診斷,治療及び豫後判定に資せらるゝに至つた.然るに我が産婦人科領域に於けるP-aseの研究は誠に寥々たるものであり,特に血清P-aseの系続的研究業績は皆無に等しい現況である.依つて著者は我が領域に於けるこれが研究を企圖し,先ず本編に於ては第一着手として各種血清P-ase測定法を檢討すると共に,健常非妊婦人に於ける血清P-ase値及び性周期に伴う消長を檢索し次の結果を得た. (1) 血清P-ase測定法は操作の簡單,成績の安定,試藥入手の難易等の諸點よりして現在の本邦に於てはHuggins-Talalay法の改良法である吉川,細谷氏變法を最良法として選定し,尚之が比色には感度のよい光電管光度計の使用を以てすることゝした. (2) 思春期健常婦人の血清P-ase値には若干の個人差を認むるもAlkaline P-ase値17.7Na.p.p.p.附近,Acid P-ase値11.2Na.p.p.p.附近にあり,性周期に伴う消長はAlkaline P-aseでは月經期を最高とし,増殖期,分泌期と次第に低下の傾向を示し,特に増殖期より分泌期にかけての低下,並びに分泌期より月經期にかけての上昇は共に推計学的に有意の差であつた. Acid P-aseはAlkaline P-aseと逆に月經期を最低として次第に上昇し,分泌期に最高値を示す傾向にあるも,性周期各期の間には推計学的の差は認められない. (3) 性成熟期健常婦人の血清P-ase値には若干の個人差を認むるもAlkaline P-ase値10.5Na.p.p.p.附近,Acid P-ase値7.6Na.p.p.p.附近にあり,性周期に伴う消長はAlkaline P-ase思春期健常婦人と同樣月經期を最高とし,増殖期,分泌期と漸次低下の傾向を示し,特に月經期より増殖期にかけての低下並びに分泌期より月經期にかけての上昇は共に推計学的に有意の差であつた.Acid P-aseも又思春期健常婦人と全く同樣の傾向にあるのを認めた. (4) 思春期健常婦人群と性成熟期健常婦人群との血清P-ase値の比較は前者が後者よりもAlkaline P-ase, Acid P-ase値とも各期を通じて高値を示し,而もその各期値の差は共に推計学的に有意の差であつた. (5) 健常婦人に於ける血清P-ase値の性周期に伴う消長及び思春期婦人血清P-ase値が性成熟期婦人のそれより高値を示す機序については全く不明である.
- 1954-09-01