羊水塞栓症の成因に関する実験的研究 : 殊に,胎便成分の血液凝固に及ぼす影響
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概要
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羊水塞栓症は正常分娩経過中に突然発症し極めて重篤な経過をたどる肺細動脈塞栓症であるが,その成因に関しては,羊水中の毳毛,胎脂,上皮細胞,胎便などparticulate mattersによる塞栓と考えられて来た.しかしながら,剖検でこれらの物質が常に大量に証明されるとは限らず,この物質による単なる機械的,物理的塞栓のみではその病態を説明することは出来ない.共同研究者の棚瀬は,胎便にtrypsin様蛋白分解酵素が存在することを証明し,この酵素と羊水塞栓症発症とに関連性があるかも知れぬと述べた.そこで著者は,胎便がparticulate matters(物理的因子)としてこの疾患の成因に関与する以外に,化学的因子として関与するかどうかを血液凝固学的立場から検討した. 1) 胎便を遠沈し,上清部分と沈渣部分に分離して家兎に静注し,併せて羊水上清,羊水沈渣(particulate matters)及び各種既知凝固亢進物質(trypsinなど)を静注して血液凝固変動をT.E.G.を用いて比較検討した.羊水上清を静注すると,thromboplastin静注時と同様の変動(rの延長)を示したが,その変動は軽度であつた.羊水沈渣や胎便沈渣(particulate matters)を静注するとガラス粉を静注した時と同様の変動(maの増大,rの短縮)を示したが,その変動も軽度であつた.一方,胎便上清を静注すると,trypsin,endotoxin静注時と同様,著明なmaの減少,rの延長が認められ,また家兎に重篤な羊水塞栓症の症状を引き起こし得た. 2) 胎便上清及びtrypsinを家兎に静注し,各種血液凝固検査を行い,両者を比較した.trypsinの静注によつて,prothrombinからthrombinへの転化,血小板凝集などが起こることは既に知られているが,胎便上清を静注すると,このtrypsin静注時と全く同様の凝固系の変動を示した.よつてこの変動は胎便に存在するtrypsinによるものと思われた. 以上,羊水塞栓症の成因には,羊水中に存在するparticulate mattersの物理的塞栓の他に,胎便に存在する化学的成分(恐らくはtrypsin)も大きく関与していることを明らかにし得た.
- 1976-04-01
著者
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