生殖医療と生命倫理
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概要
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生物は生殖により次世代を産生し,個体の死を超えて存在することを可能にしている.ヒトはあくまで生物であり,ヒトもまた生物の例外でなく,生殖により子孫をつくり出す.近年の生殖医学の進歩にはめざましいものがあり,生殖現象の解明のみならず,ヒトの生殖現象を操作する新しい技術も開発されている.1978年のヒト体外受精・胚移植による児の誕生以来20年が経過し,瞬く間に生殖補助医療技術(ART)の重要な位置を占めるようになった.それに引き続いた顕微授精の確立は,男性不妊症の治療法として近年の生殖医療をドラスティックに変貌させている.しかし,一方では技術の進歩に伴い,さまざまな医学的,社会的,倫理的,法律的な問題が提起されるようになってきている.従来はまったく妊娠を望めなかった夫婦でも子どもがもてるようになり,われわれの生命倫理観も変化してきているように思える.わが国においては,生殖補助医療について法律による規制はなされていないが,日本産科婦人科学会の会告に準拠し,医師の自主規制の下で,配偶者間および非配偶者間の人工授精や夫婦間の体外受精が限定的に行われてきた.しかしながら,わが国の生殖補助医療をめぐる現状は社会に着実に普及している一方,その急速な進歩によりそれを適正に実施するための整備が不十分であり,発生するさまざまな問題に対応することができない状況にある.また20世紀後半には,体細胞クローンヒツジの誕生とヒト体外受精の余剰胚を用いた胚性幹細胞のcell line化という2大エポックが起こった.ヒトの生殖医療に携わる我々にとっては,これらの事象のもたらす倫理的,社会的および科学的意義を否応なく考えざるを得ない時期にきている.21世紀の生殖医療は,神に代わってヒトが新しい生命をつくり出す時代といえるかもしれない.しかし,いつの時代でも忘れてはならないことは生命の尊厳に対する畏れと謙虚さである.時空を超えた絶対的な倫理というものはなく,倫理観とは時代とともに,また技術開発とともに変化するものである.しかし生殖医療において忘れてはならないことは,これら先端医療技術によって産まれている子どもの将来や基本的人権である.われわれ医師もクライアント夫婦も妊娠を求めるあまり,産まれてくる子どもの幸福を十分に考えているとはいえない状況にある.通常の医療であれば,医師と患者が十分にコミュニケーションを図り,信頼関係を築き,インフォームド・コンセントに基づいて治療を行えば問題は生じない.しかし,生殖医療においては,子を希望する夫婦とはまったく人格の異なる一人の人間の誕生がある点で他の医療と根本的な違いがあることを認識することも大切である.自己決定に基づく生殖医療であっても,生まれてくる子どもの同意を得ることはできないということである.
- 2003-08-01
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