視覚的記憶と聴覚的記憶に関する発達的研究
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概要
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本研究は,視覚的記憶と,聴覚的記憶の発達的傾向を無意味綴材料および有意味綴材料を便用して,実験し,検証せんとするのが,目的であるが,その結果の要約および結論は,つぎの通りである。1 視覚的記憶の発達 まず,無意味綴材料を用いて実験した結果について述べれば,3語,4語の,語数の少い系列では,低学年ほど,その再生率が高く,6語,7語の語数の多い系列では,高学年ほど,その再生率が高くなっている。このことは,年令が進むにしたがって,視覚的記憶はよくなってくることを意味するものと思われる。すなわち各学年の平均値の差の検定の結果は,その各々について,有意の差が認められた。ただ,中学生においては,2年生までは,小学生から引続き,発達の傾向を保っているが,3年生になると,停滞の傾向を見せているのであって,このことは,無意味綴系列の視覚的記憶においては,13才までを限度として発達するものではないか,との予測を得たが,なお,15才以上の発達の傾向については今後の研究に期待しなければならない。また,平均値をみると,小学生では,5語,中学生では,6語となっているが,これは,無意味綴材料の直接記憶の一般的限度を示すものと思われる。すなわち,小学生においては,大体,5語までが,もっともよく記憶され,中学生になると,6語までが,もっともよく記憶されるものと思われる。つぎに,有意味綴材料を用いた場合の視覚的記憶の実験の結果について,述べれば,小学校2年,3年の低学年においては,語詞数4の系列から,14の系列まで,広く分布しているのに対し,高学年になると,大体,10から15の語詞数の多い系列に集中的に分布しているのである。また,平均値を見ても,大体,高学年に進むにしたがって,高くなる傾向を見せ,各学年における,その差の検定の結果も,有意の差を示している。ただ,中学2年生において急激に下降を示し,平均値も,非常に低くなっているが,これは,無意味綴の場合と,全く反対の現象である。このことは,今後の一つの研究課題となるものと考えているが,無意味綴において,最もよい結果を示しているのに対し,有意味綴において,わるい結果を示すということに何か関係があるものと考えられる。しかし,全般的には,有意味綴における視覚的記憶は,無意味綴の場合と同様,年令が進むにしたがって,発達するといえる。2 聴覚的記憶の発達 無意味綴材料を用いて実験した結果について述べれば,大体,視覚的記憶の場合と同じように,3,4の語数の少い系列では,低学年が,再生率が高く,語数の多い系列では,やはり高学年が再生率がよい。また,各平均値の差の検定の結果は,各学年の間に,有意の差が認められる。このことから,無意味綴系列の聴覚的記憶も,視覚の場合と同様,年令が進むにしたがって,発達するといえる。ただ,中学生が,逆に,小学生よりも,低い平均値を示してるが,このことは,Whippleの実験結果と関連があるように思われる。すなわち,彼の実験結果では,数字系列を用いて,実験した場合,8才までは,比較的に聴覚的記憶がすぐれている,が,9才以後では,視覚的記憶がよくなってくることを報告しているが,本実験で,無意味綴材料を用いた場合は,11才までは,聴覚的記憶が,比較的よいが,12才以後は,視覚的記憶がよくなるという結果になり,数字系列を用いた場合よりも年令において,3才位のズレをもって,その傾向を示すのではないかと思慮せられた。つぎに,有意味綴材料を用いた場合の聴覚的記憶について述べれば,4,5,6の少い語詞数の系列では,僅かずつ低学年が存在し,高学年では,そこには,みられない。また,中心系列(各学年,最も多く再生された系列)は,2,3年の低学年では,語詞数10の系列であるが,5,6年では,12の系列である。また,平均値を比較してみると,2年生から,6年生までは,明瞭に,発達的段階を経ているが,中学生にたって,停滞の傾向が見られる。したがって,小学生においては,各学年の平均値の間に,有意の差が認められるので,有意味綴材料を用いた場合の聴覚的記憶は,6年生を限度に,年令とともに,発達の過程を持つが,中学生になると,無意味綴の場合と同様,停滞する傾向があるのではないかと考えられる。
- 日本教育心理学会の論文
- 1957-09-25
著者
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