女教師の残存条件に関する研究-奈良教育大卒業生の追跡研究-
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概要
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女性本来の特性を生かせるから、教師は女性の仕事として最適であるとしばしばいわれている。しかし、われわれの調査から得られた結論は、いわゆる女らしい教師(子どもの頃、子どもの世話が好きであったり、人形あそびが好きだったりした)が脱落しやすく、人形あそびが嫌いだったり、何ごとにつけて徹底してやるなどの伝統的な女性規範から逸脱した性格の持主に残存者が多いという事実である。皮肉な云い方をすれば、女性の特性を生かせるといわれる職場に残存しうるのはもっとも女性的でない女性であるという結論になる。教育は人間の心を扱う情緒度の高い仕事であるから、女性的な職業という評価は、ほぼ妥当な見方であろう。しかし、それは職業の内で相対的に女性度が高いという意味である。どの職業にせよ、女性が職業をもつことは家事や育児に代表される伝統的な女性規範からの離脱が必要となる。換言すれば、教師は男性にとって女性度の高い職業であっても、女性が教職を続けるのには、伝統的な意識からの脱皮が必要となる。さらに、わが国の現状は保育施設や住宅事情が貧弱で、女性が安心して社会に進出していけるだけの条件に恵まれていない。しだがって育児や家事を他の人に委ねる環境に恵まれ、そして、育児や家事に不安が残っても、それを積極的にのりこえる強い意志がなければ、教師として残存しにくいのであろう。このように考えると、残存群は女性的な規範から離脱できたから、残存しえたのだといえよう。かりに女性的な特性を持っていることが女教師にとって望ましいにしても、女らしさを持ちつつ教師を続けるのは不可能に近い。本格的な残存群が上記の通りだとしたら、彼女らを生かす道は彼女らを女教師としてではなく、教師(その教師がたまたま女性であった)として位置づけることではないであろうか。われわれは日頃性を意識しすぎる教師を非難するが、といって性を意識させない教師もどちらかといえば困った存在だと思いがちである。しかし、教師としてもっとも重要なものは、教育に対する熱意や技術であり、これらは性と切り離されて評価すべきものであろう。本調査の結論の中で、もっとも留意したいのは、潜在的脱落群の存在である。彼女らは量的にいえば、教育系大学卒業生の五割、残存群に限れば六三%を占め、女教師を代表する層を形成している。女教師問題がとかくの批判を浴びる一端の責任は、これらの層の存在にあるのではないであろうか。現状において、家事や育児の負担が重く、それらを犠牲にしてとりくむほど教職は各人を生かしてくれないという不満が慢性化して、潜在的脱落群が生まれたのであろうが、女教師問題の今後をこれらの層が握っていることはたしかであろう。したがって、育児を中心とした条件整備を制度的に充実させると同時に、教師自身も、脱落か存続かの態度を早目に固め、各々の方向に意識を傾斜させる必要がある。今まで、注釈を加えながら、女らしさの用語を何度か使用してきた。すでに指摘したように、性的役割行動は性に伴なう役割期待を内在化した社会化の産物である。端的にいえば、伝統的な女性的役割行動とは、家庭を主たる活動の場として、家事や育児を内容としながら、各成員の主張を受けとめ、それらを調整する従順な行動様式を意味している。このような社会化の型に視野を拡大することも、今後の女教師問題の検討に必要ではないであろうか。それと同時に、われわれの指摘してきたことは、女教師固有の問題というより、男教師にも適用できるものと考えられる。思考の枠組はことなっていても、男教師たちも、それぞれの論理で教職に対する挫折感を味わっているのではなかろうか。
- 1969-10-10
著者
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