水稲における出穂性の異常な遺伝と弱勢個体の発生
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概要
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本研究の目的は,水稲品種台中65号の同質遺伝子系統を交配したときその後代に出現した異常個体について,その遺伝支配の原則を求めることである.出穂を早める遺伝子Ef-1などをもつ同質遺伝子系統の戻し交雑と自殖の後代に出穂期が親と異なる変異体が出現することがある.本実験の初期には,その出現頻度は1%以下であり,複合遺伝子座内の組み換えにより種々のアイソアレルが生まれると考えた(TSAI1976).その後,変異体の出現頻度が5%を越す場合も見出され,その後代には出穂性だけでなく草丈なども親と異なる変異体が分離し,また葉緑素が減少し殆ど分けつしない弱勢個体が出現する場合もあった. 実験1では,異なる一回親を用いた反覆戻し交雑から得られた台中65号と同様の表現型を示す2系統間の交雑後代に出現した種々の異常分離個体の遺伝を調べた.その系図は図1のようであり,種々の早生系統と共に台中65号より約15日晩生の系統も得られた.この晩生系統と台中65号に誘発された晩生遺伝子ef-2をもつ系統との交雑から,両者の晩生遺伝子は同一座にあることが判った.しかし,このF。には台中65号よりやや早生の1個体が出現し,その自殖後代では弱勢個体が1/4の頻度で出現した. 実験2では,誘発早生遺伝子Ef-1^xをもつ系統に台中65号の戻し交雑を9回行って得た台中65号型個体の自殖(5回)系統に出現した弱勢個体の異常分離をとり上げた.交配実験の結果,弱勢型は単一の劣性遺伝子に支配されるが,その自殖後代には少数の正常型が出現すること,また正常型の自殖後代には再び弱勢型が分離することが判明した.そのとき,正常な生育を示す晩生型も分離した.この晩生を支配する遺伝子は意外にもef-2と同一座位にあった.さらに,弱勢個体から分離した正常型と晩生型の自殖後代系統には草丈の低下が認められた. 以上のような出穂性と生育に関する変異の発生とそれらの複雑な遺伝は1つの自律型トランスポゾンの介入を仮定することによって説明できる部分が多かった.遺伝子座内(相同染色体間)および異なる座位間のその転移によって生じる配偶子系列の頻度を予測するモデルを作り,変異の発生率からトランスポゾン転移率を推定した.変異個体が最初に発現した世代では転移卒が低く(例えば約O.3%)次代以後にはもっと高くなる(例えば5.5%)傾向があった.現在,分子生物学的にトランポゾンの存在を実証する研究も計画中である.
- 日本育種学会の論文
- 1990-06-01