数種作物における栽培種・野生種の収量について
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概要
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作物の栽培化及びその後の改良において,作物(植物)自身の生産力がどのように変化してきたかは極めて興味深い問題であるが,ほとんど明らかになっていない.その理由の一つとして,野生(祖先)種の生産力が調べられていないことが考えられる.本研究は,野生祖先種及び近縁野生種の生産力を推定し,栽培化における生産力の意義を明らかにするとともに,野生種の中での祖先種の特徴を明らかにしようとしたものである. 利用器官の異なる4作物,イネ・ダイズ(種子),ナス(果実)及びタバコ(葉)を材料とし,その栽培種,野生祖先種(1〜2種)及び近縁野生種(2種)を用い(Tab1e1),ポット栽培並びに圃場栽培を行い,収量及び関連形質を調査した。なお,栽培種としてはわが国の主要品種(1品種)を用いた.またイネ及びダイズの野生種は脱粒性を有するため,植物体を寒冷紗で囲み,全ての種子を収穫した.従って,本研究で用いる収量は,全ての生産物を収穫した時の収量である.ポット試験では,4作物のうち,イネとダイズで野生祖先種の収量が最も高かった.ナスでは栽培種の収量が最も高く,野生祖先種の収量は栽培種の40〜60%であった.またタバコでは祖先種の一つであるNicotiana tomentosiformisの収量が最も高かったが,他の祖先種であるN.sylvestrisの収量は非常に低かった.このように,ポット栽培における収量は必ずしも栽培種が最も高いのではなく,野生祖先種と栽培種の間で収量に大きな差のないことが明らかになった(Tab1e3).また個々の収穫器官は栽培種が最も大きい.野生種の中では,祖先種の収量が最も高い場合が多く,収穫器官の大きさも祖先種で最も大きい. 圃場試験においても,ポット試験とほぼ同様の結果が得られた(Tab1e4).ダイズとナスでは栽培種の収量が祖先種よりも高かったが,イネ及びタバコでは祖先種の収量の方が高かった.また収穫指数も,イネとタバコでは栽培種よりも祖先種の方が高い値を示した. 以上の結果,イネ,ダイズ,ナス及びタバコの4作物に関しては,本実験条件では収穫器官の違いにかかわらず,栽培種と野生祖先種の間で収量に関して大きな差は認められず,祖先種の生産力はかなり高いことが明らかになった.しかし,個々の収穫牒官の大きさは栽培種の方が野生種よりも大きくなっている.また,野生種の中での祖先種の特徴は,収穫器官が大きく,生産力も高いことであると考えられる. このように栽培種の収量が祖先種に比べ必ずしも高くないことは,栽培化の過程で収量自体が直接選抜の対象にならなかったことを意味していると考えられる.むしろ,脱粒性の消失や収穫器官の大型化などによる作業効率の向上が栽培化過程での主要な問題であったと思われる、また,収穫指数に関しても,イネやタバコでは祖先種の方が栽培種よりも高い値を示しており,その重要性が認識されたのは比較的最近のことであったと考えられる.
- 日本育種学会の論文
- 1988-12-01
著者
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