二倍体ギニアグラス(Panicum maximum JACQ.)のB染色体
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概要
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暖地型牧草のギニアグラス(Panicum maximum JACQ.)はわが国の南部地域で最も有望な草種の一つである。著者らは1975年にギニアグラスの育種を開始するにあたって、まず外国からの多数の収集・導入系統について特性評価を行った。なかでも、アフリカのタンザニアで種子で採集した材料から育成された有性生殖の二倍体系統(2n=16)において、多数の染色体数の変異が観察され、この変異はB染色体によることが明らかになった。本研究では、二倍体のギニアグラスで初めて見い出されたB染色体について、系統内出現頻度、減数分裂における行動、伝達様式、及び農業形質と稔性に及ぼす影響について明らかにし、その育種的意義について若干の考察を加えた。タンザニアで採集した種子(アクセッション番号 GR297)を播種し、放任受粉して得られた個体(73/1126-8)は2n=16の染色体数を有し、更にこれを増殖(自殖と兄妹交配)して育成されたS-71系統では、調査した全11個体の染色体数が2n=16と観察された(Fig.1、Table 1)。しかし、同じアクセッション番号GR297の種子を播種し、自殖して得られた個体(73/1126-19)は、2n=16+2Bの染色体数を有し、これを増殖(自殖と兄妹交配)して育成されたS-34系統では、調査した23個体がO〜8個体のB染色体を有していた(Fig.1、Table 1)。このB染色体の数は同一個体内では観察された花粉母細胞が異なっても常に一定であり、その大きさはA染色体とほとんど差異がなかった。減数分裂第一中期における染色体の対合をみると、B染色体を1個有する1B個体では常に一価染色体が観察され(Table 2、Fig.2-B)、このB染色体はA染色体とは対合しなかった。B染色体が2個(2B)以上存在する場合には、8個以上の二価染色体が観察され(Table 2、Fig.2-C、Fig.2-D)、B染色体はお互いに対合し二価染色体を形成した。B染色体の伝達様式を明らかにするために、0B個体(S-34-15、S-34-23)と1B個体(S-34-20、S-34-25)との交配を行い、F_1個体についてB染色体数を調査した(Table 3)。1B個体×0B個体では、0B個体と1B個体が観察され、逆交雑の0B個体×1B個体では、0B個体と2B個体が認められた。このようにB染色体は雌雄両配偶子から伝達されたが、正逆交雑によってその伝達様式が異なり、B染色体が雌性側にある場合よりも雄性側にある場合に、次代植物のB染色体数が増加した。穂長と葉長はB染色体の存在とほとんど関係はないが、草丈はB染色体数が増加するにしたがって短くなった(r=-0.481)。また、花粉稔性と種子稔性はB染色体の有無と多少によって影響された。特に種子稔性はB染色体の数が3個以上になると著しく低下した(Table 4)。
- 日本育種学会の論文
- 1988-06-01
著者
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