二,三のイネ科作物における胚生長の解析
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概要
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イネ・コムギ・オオムギの胚生長,特に初期生長,の一般的た傾向を明らかにするため,胚長・胚厚・細胞数を測定し解析した。イネ・コムギ・オオムギともに胚発生の最初から指数的に生長するのではなく,100〜200細胞になって指数生長を開始する。それまでは非常にゆっくりとした生長を行なっている。一方,細胞数は最初から指数的に増加するが,20〜40細胞期において細胞増加率の低下が起こる。従って,生長様式の転換(たとえば,指数生長・の開始,細胞増加率の変化)は,胚が一定の細胞数に達した時におこると考えられる。また以上の結果から,球状胚段階を三つの時期に分けることができる。すたわち,球状胚前期一受精卵から20〜40細胞期まで,球状胚中期--20〜40細胞期から100〜200細胞期まで,球状胚後期-100〜200細胞期から"二点突起"(球状胚からの最初の形態的変化として定義される)までの三時期である。特に100〜200細胞期は重要な時期であって,指数生長が始まるだげでなく,前報で報告した生長率の二つのリズムもこの時期から始まる。従って,この100〜200細胞期になると胚の代謝活動が活発化し,細胞間の積極的な相互作用も始まると思われる。胚長と胚厚の相対生長の解析から,イネ・コムギでは相対生長係数(第1主成分軸の傾き)が"二点突起"の少し前と第1葉分化後に変化することが明らかになった。"二点突起"の少し前では相対生長係数は減少し,胚長方向への生長が胚厚方向への生長を上回って,胚はより細長い形になる。逆に発生後期になると相対生長係数は増大し,胚は成熟に向けて太り始める。一方,オオムギでは相対生長係数の変化が見られず,胚長と胚厚の間の生長率の関係は胚発生を通して一定していることが明らかになった。胚厚/胚長値の変化は相対生長係数の変化と対応している。次に,胚長と胚厚の相対生長における第1主成分軸に対する残差分散及び胚厚/胚長値の変異係数を用いて胚の形のばらつきを調べたところ,イネ・コムギ・オオムギともに常に球状胚段階の方が"二点突起"後の段階よりも胚の形のばらつきが大きいことが明らかになった。従って,球状胚段階では胚の形は不安定であると思われる。以上の解析から,明らかになった胚の生長様式がイネ・コムギ・オオムギの間で共通していることは,本結果が他のイネ科植物にもあてはまる可能性を示唆している。
- 日本育種学会の論文
- 1978-06-01
著者
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