稲における形質間相関に関する研究 : II.遺伝子型と環境との相互作用として把握される負の形質間相関について
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概要
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稲はその初期生長期において、体重に明らかな遺伝変異を示すが、体内窒素含有率についてはそれが認められない。体重と窒素含有率の積、すなわち対数尺度における和を体内全窒素量と見傲すならぱ、これは植物体に対する窒素供給量に大きく左右されるといってよい。実験の示すところによれぱ、体重の遺伝的変異の大きさは環境条件の一つである窒素供給量にそれほど大きく影響を受けないが、これに対し体内全窒素量の場合には、その遺伝的変異の大きさは窒素供給量に強く左右され、もし供給量が植物体の生育程度に比し少なくなるならそれだけ体内全窒素量の遺伝的変異は小さくなる。窒素供給量が限られてくると、体重と体内窒素含有率との間に負の遺伝的相関が生じてくる。その値は植物体の生育程度に対し供給される窒素の相対量により定まるから、この相関は遺伝的支配の下にあるにしても、それを単に「遺伝的な負の相関あり」とのみ受けとらず、栄養生長初期に既に認められるところの生長率に関与する遺伝的要因を経とし、環境要因としての窒素供給量との相互作用を線として発育的経過を通じて表現されたものとして理解さるべきであろう。実験的にも供給窒素量を調節してゆくと、この相関の値は一1に近ずいたり、反対に0に近ずいたりする。因に、最も旺盛な生育を示し、体重の遺伝的変異が最大となる条件の下では体重と体内窒素含有率の間にみられる負の遺伝的相関は極めて有意である。体内窒素含量の遺伝的変異は、窒素供給量が比較的豊かな場合よりも少ない場合の方で人となり、その大きさは体重と体内窒素含有率の間の遺伝的相関の値に依って定まり、相関がゆるくなると零に近ずくわけである。従って、体内窒素含有率の遺伝的変異についての観察値なるものは、体重と窒素含有率との間における負の相関々係を通じて得られたところの植物体重における遺伝的変異の投影であるといってよい。統計遺伝学的表現を借りれば、供給される窒素の量によって遺伝的変異並びに遺伝的相関が変異するのは、遺伝子型と供給窒素水準との間の相互作用の結果である。この相互作用があるために、体重、体内窒素含有率、或はまた、体内全窒素量などの形質において、遺伝分散や遺伝共分散の推定が困難となるし、求めたにしても値そのものの有用性が低下してしまう。しかしながら、或る一定の条件下、例えば慣行的な窒素施与量の下などで実験が施行され、そしてそこに得られた遺伝変異や遺伝子型環境相互作用などの、いわゆる統計遺伝学的手段による知見は、それを全く別の条件下での類推に機械的に拡大適用せぬ限りにおいては、有用たものであるのはもちろんである。
- 日本育種学会の論文
- 1968-12-31
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