アンサンブル気候実験で再現される東アジアの冷夏・暑夏
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
東アジア、特に日本と韓国では、1970年代後半から最近の1990年代前半にかけて極端な冷夏・暑夏が頻繁に起こっている。その原因を解明するために、気象庁全球大気モデル(T42GCMバージョン)を用いて、過去40年間の気候を再現するアンサンブル気候実験を行った。1955年1月から1994年12月までの全球規模で観測された海面水温(SST)を境界条件として、境界条件は同一であるが、初期条件が少しずつ異なる三つのパラレルランの結果を解析した。SST強制によるモデル大気の応答から、日本周辺における夏季平均気温の年々変動の振幅変調をもたらしている大規模スケールの大気循環場が非常に良く再現されていることが確認された。1980年代初頭から1990年代前半にかけて、南シナ海とフィリピン東方の西部熱帯太平洋との間の夏季SST偏差の東西傾度がかなり大きく変化する傾向を示しており、フィリピン付近の積雲対流活動と関連して、その変動はモデルで再現された日本付近における対流圏下層の高度偏差の位相とよく一致している。対流加熱の変化はPJパターン(Nitta, 1987)の励起という力学過程を通して、東アジアの対流圏下層の循環場に大きな影響を与える。1970年代後半から最近にかけて極端な冷夏・暑夏が起こりやすくなっている現象は主として熱帯からのSST forcingに起因している。フィリピン付近の夏季SST偏差の東西傾度が強くなるためには、弱い(強い)夏季アジアモンスーンとエルニーニョ(ラニーニャ)フェーズのENSOとのカップリングが必要である。1970年代後半から1990年代前半までの間に発生したエルニーニョ現象は、Rasmusson and Carpenter(1982)によって示された典型的なモデルとは季節進行の観点でかなり異なっている。2シーズン前の冬から夏にかけて異常に持続したENSOのシグナルと、それと関連するアジアモンスーン活動の両方が、夏季のフィリピン付近に形成されるSST偏差の東西傾度を強く規制している。
- 社団法人日本気象学会の論文
- 1998-08-25
著者
-
栢原 孝浩
防災科学技術研究所
-
川村 隆一
防災科学技術研究所
-
杉 正人
気象研
-
杉 正人
気象研究所気候研究部
-
佐藤 信夫
気象庁気象衛星室
-
川村 隆一
富山大・理
-
佐藤 信夫
気象庁観測部
-
栢原 孝治
防災科学技術研
-
杉 正人
気象庁・気候情報
-
杉 正人
気象研究所
-
佐藤 信夫
気象庁
-
栢原 孝浩
独立行政法人防災科学技術研究所
関連論文
- 北海道の夏季静穏日におけるGPS可降水量の日変化
- B167 地球温暖化に伴う熱帯低気圧の地域ごとの発生数の変化(気候システムI)
- 北半球夏季西太平洋上における大規模対流活動の急激な季節変化
- 第1回インド洋熱帯低気圧と気候変動に関する国際会議出席報告
- P312 複数の異なる海面水温偏差を用いた大気大循環モデルによる地球温暖化実験の熱帯低気圧活動度について
- 第5回「大気 - 海洋相互作用研究会」報告
- 季節予報の潜在的予測可能性について
- i 災害ポテンシャル予測モデルの研究((2)全球水文過程における災害予測に関する研究,d.地球科学技術特別研究,1.特別研究,2.(1)研究課題一覧,2.研究活動)
- i 全球災害ポテンシャル予測モデルの研究((2) 全球水文過程における災害予測に関する研究,d. 地球科学技術特別研究,1. 特別研究,2.(1) 研究課題一覧,2. 研究活動)
- GCMシミュレーションとECMWF再解析データによる日変化から年々変動までの全球水収支について
- 3.1.11 全球水文過程における災害予測に関する研究(地球科学技術特別研究,3.1 特別研究,3. 研究業務)
- 大河川流域の流出率による気象庁全球モデルの陸面水文過程の評価
- 防災科研におけるGCMの開発とAMIPIIへの参加について
- 3.1.12 全球水文過程における災害予測に関する研究(地球科学技術特別研究,3.1 特別研究,3. 研究業務)
- JMA89モデルを用いた河川流出量の評価(2)流路網モデルの開発
- JMA89モデルを用いた河川流出量の評価(1)積雪対流スキ-ムによる流域水収支の比較
- JMA89モデルを用いた大河川流域の降水量および流出量の評価
- JMA89モデルを用いた河川流出量の評価
- A101 雲解像領域大気モデルの高解像度化と温暖化による極端現象の変化予測(気候システムI)
- (5)全球水文過程における災害予測に関する研究 : 気候変動に関わる気象・水害予測に関する研究((4)火山災害、気象災害、土砂災害等の災害対策に関する研究開発, 1プロジェクト研究)
- P302 爆弾低気圧の集中化と北陸地方の大雪の発生について(ポスターセッション)
- P309 発生期の台風の数値シミュレーション : 全球モデルと非静力学モデルによる再現性の違い
- A103 水平解像度5km/1km非静力学モデルによる領域温暖化予測実験 : 全球大気モデル実験を境界値に用いた予備実験 : 温暖化による大雨現象の変質(気候システムI)
- A103 水平解像度5km/1km非静力学モデルによる領域温暖化予測実験予備実験 : 大雨事例の抽出と5km/1km-NHMの結果の比較(気候システムI)
- A102 水平解像度5km非静力学モデルによる領域温暖化予測実験 : 完全境界実験による精度評価(気候システムI)
- P357 大気大循環モデルによる温暖化実験の台風の最大可能強度について
- P334 熱力学的視点からの台風の活動度の解析について
- (5) 全球水文過程における災害予測に関する研究(気候変動に関わる気象・水害の予測に関する研究)((4) 火山災害、気象災害、土砂災害等の災害対策に関する研究開発,1 プロジェクト研究,I 研究活動)
- (14) 全球水文過程における災害予測に関する研究(1 プロジェクト研究,I 研究活動)
- (2) 水循環過程に関する共同研究(7. 共同研究・受託研究,2.(1) 研究課題一覧,2. 研究活動)
- 3.4.3 全地球システムモデル研究(3.4 海洋開発及び地球科学技術調査研究促進費による研究,3. 研究業務)
- 高解像度大気海洋結合モデルによって再現されたENSOと台風
- 3.5.8 全地球システムモデル研究(3.5 海洋開発及び地球科学技術調査研究促進費による研究,3. 研究業務)
- 3.3.25 気圏・水圏総合モデルに関する予備的研究(3.3 経常研究,3. 研究業務)
- P428 日本におけるダウンバースト発生の環境場と予測可能性(ポスターセッション)
- 梅雨と東南アジア・西太平洋モンスーン
- 気象庁全球モデルを用いた数値実験による海面水温変動によって強制されて起きる大気変動と季節平均場の予測可能性に関する研究
- B163 インド洋・西太平洋における暖候期の熱帯対流活動 : 自己組織化マップの適用(スペシャル・セッション「異常気象と低周波変動」,口頭発表)
- B162 冬季東アジアのコールドサージの発生プロセスと熱帯大気の応答(スペシャル・セッション「異常気象と低周波変動」,口頭発表)
- P159 冬季モンスーン時の東シナ海の大気海洋相互作用と総観規模擾乱活動(ポスター・セッション)
- 2010年春季極域・寒冷域研究連絡会の報告(研究会報告)
- P185 続雪形って知ってますか? : 白山の雪形「猿たばこ」
- JMA89モデルを用いた河川流出量の評価(II)
- 全球水循環の解析.(全球平均した降水と蒸発) : JMA89モデルを用いた評価
- JMA89モデルの二つの積雲対流スキームによる気候値の比較
- 二つの対流スキームを用いた気象庁全球モデルの熱帯降水の気候特性の比較
- D403 解像度の異なるモデルによる台風の発生過程のシミュレーション(台風)
- P347 熱帯低気圧気候実験における解像度依存性(ポスター・セッション)
- i 災害ポテンシャル予測モデルの研究((2)全球水文過程における災害予測に関する研究,d.地球科学技術特別研究,1.特別研究,2.(1)研究課題一覧,2.研究活動)
- 3.1.13 システムとしての降水現象解明のための研究(地球科学技術特別研究,3.1 特別研究,3. 研究業務)
- 気象庁モデルによってシミュレートされた1955年-1994年の3次元大気角運動量
- 地球温暖化が台風の気候に及ぼす影響について(4) : 気象庁全球モデルの数値実験による考察(まとめ)
- アンサンブル気候実験で再現される東アジアの冷夏・暑夏
- 気象庁全球モデルでシミュレートされた北半球夏の熱帯の30-60日季節内振動
- 地球温暖化が台風の気候に及ぼす影響について -気象庁全球モデルの数値実験による考察(3)
- JMA89モデルによる93, 94年のアンサンブル気候実験
- アンサンブル気候実験で再現される日本の冷夏・暑夏 -なぜ最近極端な冷夏・暑夏が起こるのか-
- アンサンブル気候実験で再現される十年/数十年スケール変動
- 最近の熱帯海水温の変化は温暖化の兆候か? : JMAモデルのアンサンブル気候実験(39年積分)
- 1999年盛夏季の北陸地方で発生したフェーンの異常持続について
- 3.5.8 全地球システムモデル研究(3.5 海洋開発及び地球科学技術調査研究促進費による研究,3. 研究業務)
- 防災科学技術研究所
- 北半球夏季西部太平洋の熱帯・中緯度45日周期擾乱
- 擾乱と平均モンスーン循環との順圧相互作用
- 夏季モンスーン循環と45日周期擾乱とのインタラクション
- 梅雨前線付近の雲クラスターの出現特性 : 組織化スケールの変動と環境条件
- 梅雨期雲クラスターの組織化スケールと環境条件
- 梅雨前線付近の雲クラスターの出現特性(1992年6月5日-18日)
- 海面水温と夏のモンスーン (対流スキームがもたらす表現の違い)
- P431 新聞紙上で例えとして使われる気象用語
- 南部アフリカ半乾燥地域の降水, 高度場, 海水面温度の関係
- サヘルの降水傾向に関連した熱帯降水帯、大気循環、海水面温度
- 防災科学技術研究所における台風とその災害に関する研究 (伊勢湾台風50年 特別号)
- 観測時間間隔の粗さによって生じる全球格子点データの誤差について その2
- 1998年夏の日本の不順な天候の原因は何か?
- アンサンブル気候実験で再現される10年/数十年スケ-ル変動 (総特集 10年/数十年スケ-ル変動)
- アンサンブル気候実験で再現される日本の冷夏・暑夏 (1993/94年夏の異常気象の解明) -- (モデルによる冷夏・暑夏の再現と予測)
- P158 大気大循環モデルによる温暖化SST実験と2xCO_2実験において再現された熱帯低気圧活動度の積雲対流調節方式の違いによる影響について
- P305 大気大循環モデルによる2xCO_2実験において再現された熱帯低気圧活動度の積雲対流調節方式の違いによる影響について
- P351 大気大循環モデルで再現された熱帯低気圧活動度のENSO/インド洋ダイポール現象に対する関係について
- 大気海洋結合モデルと大気大循環モデルにおいて再現された台風の比較(2)
- アジアモンスーン地域の年々変動への積雲対流方式による影響について
- 南半球の気象と海洋に関する第4回国際会議の報告
- Role of large-scale circulation in triggering foehns in the Hokuriku district of Japan during midsummer
- 中国・四国地方と瀬戸内海の夏季静穏日におけるGPS可降水量の日変化と熱的局地循環
- P312 対流圏中層の水平温度移流を指標とした梅雨の季節進行と経年変動(ポスター・セッション)
- P317 富山及び石垣島における梅雨期の降水起源解析(ポスター・セッション)
- 自己組織化マップ(新用語解説)
- P133 ENSO衰退期,発達期における熱帯対流活動の非対称性 : 自己組織化マップの適用(ポスター・セッション)
- C357 冬季黒潮流域におけるSST前線と総観規模擾乱活動(スペシャル・セッション「東アジアモンスーンと黒潮-中緯度大気海洋相互作用の再発見へ向けて-」,一般口頭発表)
- C359 春季日本に大規模降水をもたらす低気圧活動の動態(スペシャル・セッション「東アジアモンスーンと黒潮-中緯度大気海洋相互作用の再発見へ向けて-」,一般口頭発表)
- P312 2010/11年冬季における富山の降水起源と日本近海の低気圧活動(ポスター・セッション)
- P137 極端気象データベース : 過去の雨量画像情報(ポスター・セッション)
- P313 冬季日本の降水イベントの将来変化と爆弾低気圧活動との関係(ポスター・セッション)
- 日本の夏季の異常気象と地球温暖化 (総特集 温暖化と気候,異変の兆候)
- Xバンドマルチパラメータレーダネットワークにより観測された台風12号と15号の豪雨と強風
- 日本におけるGPS可降水量の季節変化の特徴
- 日本におけるダウンバースト発生の環境場と予測可能性
- P312 冬季黒潮流域周辺の低気圧活動に影響を与えるモンスーンとSST勾配の効果(ポスター・セッション)
- P118 MPレーダ1分値を用いた関東における降雨特性(ポスター・セッション)