気温データにおける都市化影響トレンド成分の統計的分離手法の構築とわが国の気温データへの適用
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概要
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地球温暖化の検出を議論する上で、観測された気温データから都市化影響トレンド成分をいかに分離するかは重要な課題である。本論文では、一定地域内の気温データに対する主成分分析を利用し、妥当な比較参照地点(郊外地点)を近隣に持たない都市観測地点を含んでいる場合でも、それらの地点を含めた全地点の都市化影響のトレンド成分を系統的に分離できる統計的手法を構築した。手法の数学的な記述の後、手法の具体的な説明のため、模擬的なトレンド成分を任意の数地点にのみ追加したモデルデータに本手法を適用した例を示した。この例では、各主成分トレンド中に含まれる模擬的なトレンド成分の実態を明らかにすると同時に、この模擬的なトレンド成分が本手法によりモデルデータから分離されることを示した。わが国の過去73年間(1920〜1992)の51地点の月平均気温データにこの手法を適用し、各地点の気温観測トレンドから都市化影響トレンド成分を分離した。この結果、わが国の人口10万人以上の都市では年平均気温において最大で1.0〜2.5℃/100年の都市化影響による気温上昇トレンドがあったことが明らかになった。このトレンドの値は、米国や中国における都市化影響トレンドの大きさとほぼ一致していた。都市化影響の季節変化については、特に大都市で寒候期にトレンドが大きく、暖候期に小さい傾向が存在し、最大値は冬季または秋季、最小値は夏季に見られた。本手法を用いて都市化影響を除去した結果、対象期間内の気温トレンドは年平均値では全国的に正の値を示し、北日本の0.5℃/100年から西日本の1.1℃/100年の範囲にあり、全国平均では0.8℃/100年であった。季節別に見た場合、特に冬季〜春季(12月〜5月)にかけての正のトレンドが顕著であり、全国平均で1.0〜1.6℃/100年の値を持ち、その最大値は3月に見られた。一方、夏季と秋季には正のトレンドは小さく、特に北日本では7月〜11月にかけて負のトレンドがみられた。7月には東北から北海道にかけての広い範囲で1.0℃/100年を上回る気温低下が見られるが、負のトレンドの範囲は南日本までは及ばなかった。こうしたトレンドの地域差の結果、気温の南北傾度は夏季から秋季にかけて増大し、7月、10月にはトレンドの南北差が最大2℃/100年にも達していた。
- 社団法人日本気象学会の論文
- 1996-10-25
著者
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