土壌溶液論的にみた黒ボク畑土壌のリン酸の上限
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概要
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栃木農試が実施したホウレンソウおよびコムギのリン酸に関する収量試験畑土壌を対象に, 土壌溶液のリン酸を溶解度積を利用した解析によって土壌におけるリン酸の上限を設定しようとした. さらに, 栃木農試の収量結果を参考にし, 栽培上の適正上限についても考察した. 1) 土壌の有効態リン酸の増加に伴い土壌溶液のリン酸濃度も上昇するが, 灰色低地土に比較して上昇割合は10^<-5>M付近からゆるやかとなり, 有効態リン酸125mgで土壌溶液リン酸濃度は10^<-3.5>Mとなった. 2) p(Ca^2+)(H_2PO_4^-)は有効態リン酸の増加に伴いCaHPO_4・2H_2Oの溶解度積に接近する傾向を明瞭に示したが, 有効態リン酸700mgでも飽和溶液とはならなかった. 本実験期間中の土壌溶液pHは6.03〜7.31, カルシウムイオンの活動度は試料採取題1回から第4回までが平均10^_ < -2.47> M, 第5回から第7回までが平均10^ < -3.24 &lgt; Mであった. 3) 土壌溶液のアルミニウムイオン(Al^ < 3+ >)は, 非晶質水酸化アルミニウムとの溶解平衡関係にあるとみなすことができるが, アルミニウムイオンの動向をそれだけから説明するのは困難であった. 4) リン酸アルミニウムとの平衡関係を考察するためにpH(1/3)p(Al^ < 3+ >)に対してpH+p(H_2PO_4^-)をプロットした.プロットした半数以上がバリサイトの溶解度積を上回り, またすべてが非晶質リン酸アルミニウムの溶解度積以下であったことから, 酸性側でリン酸の上限を基底するのは非晶質リン酸アルミニウムとするほうが妥当だと考えた. しかし, 有効態リン酸レベルとリン酸アルミニウムに対する飽和度との間には明瞭な対応関係がなかった. 5) 灰色低地土同様, 黒ボク土においても, Al(OH)_2H_2PO_4(非晶質)-Al(OH)_3(非晶質)-CaHPO_4・2H_2O-H_2O系におけるリン酸の溶解度図を作成することによって, 土壌溶液中のリン酸の上限を包括的に表わすことができた. (1) 有効態リン酸125mg以下のレベルでは事実上上限に達せず, (2) 125m〜400mgレベルでは土壌溶液pHが5以下でAl(OH)_2H_2PO_4(非晶質)の, 7.5以上でかつカルシウムイオンの活動度が10^ < -2.5 > M程度である場合にCaHPO_4・2H_2Oの飽和溶液となって上限に達する. (3) 400〜700mgレベルに達すると, 酸性側ではpH5〜6でAl(OH)_2H_2PO_4(非晶質)の, アルカリ側ではpH6.5〜7.5でかつカルシウムイオンの活動度が10^ < -2.5 > M程度である場合にCaHPO_4・2H_2Oの飽和溶液となり上限がかかる. しかし, (4) 本試験畑のように土壌溶液のpHが6〜6.5の範囲をとる場合には, 上限となる有効態リン酸は700mgを越え, 1000mg以上になるものと推察された. したがって, 灰色低地土に比べて黒ボク土の溶解度積からみたリン酸の上限ははるかに高い有効態リン酸量になることが判明した. 6) 栃木農試の試験結果から, 黒ボク土では総合的に考えて栽培上の適正上限は有効態リン酸相当で100mg程度と判断した. この有効態リン酸に対応する土壌溶液のリン酸濃度はほぼ10^ < -5.0 > Mであった.
- 社団法人日本土壌肥料学会の論文
- 1987-02-05
著者
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