歯周ポケット由来Prevotella nigrescensのexopolysaccharide産生に及ぼすerythromycinの影響
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
歯周病の発症には,嫌気性グラム陰性桿菌のPorphyromanasやPrevotellaが関与し,これらの細菌が産生するexopolysaccharide(EPS)はbiofilm形成に重要である.すでに低濃度のタンパク合成阻害薬による長期投与が身体他部のbiofilm感染症で実施されているが,歯周病原細菌が産生するEPS産生に及ぼすマクロライドの影響に関する研究はほとんど行われていない.そこで本研究では,歯周ポケット由来でEPSを産生するPrevotella nigrescens strain 22とstrain 23(strain 22とstrain 23)のEPS産生性に及ぼすマクロライドの影響を検討した.両菌株に対する13種の抗生物質のMICと,各1/2MIC添加培地で培養した菌液の粘度を測定した.その結果,14員環マクロライドのMICは0.016〜0.25μg/mLを示し,薬剤未処理株に対する処理株の培地粘度は12〜22%減少した.次に両菌株を1/2MIC erythromycin(EM)を含む培地で24時間ごとに15日間嫌気培養すると,増殖量は1.35〜1.45(OD_550nm)でほぼ一定であったが,粘度は処理開始5日目まで減少し(減少率30%),その後,15日目まで粘度に変化は認められなかった.さらに,この系よりEMを除くことで培地の粘度は5日目より上昇し,15日間の培養で10%程度回復した.EM反復処理による粘度減少をさらに解析するためにEM未処理株とEM反復処理株からそれぞれ50コロニーを選択し,MICと粘度を測定した.EM反復処理した両菌株由来のコロニーに対するEMのMICは,未処理のMIC分布のピークに比べてわずかに大きな値になったが,耐性菌は認められなかった.EMを反復処理した場合の粘度減少率はMICに関係なくほぼ一定で,strain 22では11〜13%,strain 23では14〜17%であり,粘度減少率は未処理の場合より大きかった.EM反復処理後に得られたEPS低産生株(strain 22L,strain 23L)を未処理株と比較したところ,API ZYM systemでは酵素産生性に差異は認められなかった.SEM観察では,strain 22L,strain 23Lともに親株で多数みられた網目状構造がほとんど認められなかった.また,I型コラーゲンを塗布したスライドグラスに対する細菌の付着を調べたところ,strain 22L,strain 23Lともに散在性に細菌が存在するにすぎず,親株でみられた細菌同士が凝集する像は消失していた.以上,EPSを産生するPrevotella nigrescensに対するEMの低濃度,長期間投与に関する結果を総括すると,i)EPS産生抑制によると考えられる培地粘度の減少はEM処理開始後5日目にピークとなり,15日目までほぼ一定の値を示した.ii)粘度減少は培地よりEMを除くことにより回復し,突然変異によるものではないことが明らかとなった.iii)この処理による耐性株は分離されなかった.iv)SEM観察ならびにI型コラーゲンへの付着実験では,EM未処理の親株でみられた網目状構造やコラーゲン膜上での凝集塊の形成が消失していた.これらのことから,1/2MIC濃度のEMによる長期処理が歯周炎局所でPrevotella nigrescensによるbiofilm形成を抑制する可能性が示唆される.
- 大阪歯科学会の論文
- 2002-06-25
著者
関連論文
- 歯周ポケット由来Prevotella nigrescensのexopolysaccharide産生に及ぼすerythromycinの影響
- 歯周ポケット由来Prevotella nigrescensのexopolysaccharide産生に及ぼすerythromycinの影響