下顎の開口動作に先行する開口筋筋活動に関する筋電図的研究
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概要
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咀嚼時に観察される開口筋の開口動作に先行する筋活動につき, その動作学的な意義を明らかにするため, 咀嚼に比べ比較的単純で再現性に優れた open-close-clench cycle (OCC運動)を被験運動とし, 開閉口運動速度, 咬みしめ力, 運動の繰り返しの有無, 歯の接触の有無, 歯根膜感覚の有無などの条件が外側翼突筋下頭(Lpt), 顎二腹筋前腹(Dig)の onsetに及ぼす影響について観察した. 実験1 下顎運動速度と咬みしめ力の変化による影響を観察するため, 健常有歯顎者男子6名にOCC運動を行わせ, 右側 Lpt, Dig, および咬筋中央部(Mm)より筋電図を双極誘導し, 下顎運動路は MKG K6にて筋電図と同時記録した. 運動リズムは信号音で規定し, 開閉口相450msec, 咬合相180msecのリズムを基準に咬合相を一定にして開閉口相を変化させたり, 開閉口相を一定にして咬合相を変化させたりした. また基準のリズムで咬みしめ力を被験者ごとに任意に強, 中, 弱と変化させた. これらの試行はそれぞれ40ストロークずつ行わせ, 信号音を切った後半20ストロークのうち任意の10ストロークを計測対象とした. 計測は, 筋電図, 筋電図積分オートリセット波形, MKG vertical曲線を紙面に再生後, 各ストロークの開口開始点と Lpt, Digの onsetとの時間差(OT)を測定し, 各試行ごとに平均値を求め統計的に分析した. また, 各試行の咬合相における Mm平均筋活動量も同時に計測した. その結果, 有歯顎者のOCC運動では, Lpt, Digともに開口開始に先行する筋活動がみられ, それぞれの筋の onsetは, 開閉口相時間, 咬合相時間の変化によっては有意な変動を示さなかったが, Mm平均筋活動量の変化によって有意に変動し, Mmの活動量が大きくなると開口筋 onsetはより先行する傾向を示した. 最大開口速度の変化は開口筋 onsetには影響を及ばさなかったが, 開口前の筋活動量を有意に変動させる傾向を示した. 咬合相における Mmの平均筋活動量が増すと, 開口筋の開口前に認められる筋活動比が高くなる傾向を示した. 開口筋の先行活動は, OCC運動のような繰り返し運動のみならず, 一度だけの咬みしめ後の開口においても認められた. 実験2 歯の接触の有無による影響を観察するため, 健常有歯顎者男子4名を被験者とし, 実験1と同じリズムで, 歯を接触させない開閉口運動を行わせ, この時の開口筋OTを測定した. その結果, 歯を接触させない開閉口運動では, Lpt, Digともに開口に先行した活動が認められず, cycle timeの変化によってもOTは影響されなかった. 実験3 歯根膜感覚の有無による影響を観察するため, 総義歯装着患者5名に対しOCCを被験運動としOTを計測した. 運動リズムは被験者ごとに任意のリズムでさらに速度や咬みしめ力を自発的に変えるように指示し, 各患者で記録した45ストローク中25ストロークのOTを計測した. その結果, 総義歯患者におけるOCC運動では, Lptおよび Digの onsetが, 開口開始から先行したが, Mm 平均筋活動量の変化によって onsetは有意な変動を示さず, 有歯顎者とは異なる傾向を示した. 以上の結果より, 開口筋 onsetの開口開始からの先行は, 下顎を開口方向に向けるための準備的活動であることが示唆され, これらは開口筋としての動作的特徴であることが示された. また, 開口筋 onsetを変化させる重要な要因は咬みしめ力であることが明らかとなったが, 総義歯患者では, 開口筋 onsetの調節性が有歯顎者に比較するとやや劣る傾向が示された.
- 1995-08-25