膿汁中細菌の微細構造ならびに画像処理
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
内因感染を示す口腔感染症の発症機構を研究するには, 宿主と寄生体の相互反応を電子顕微鏡学的, 生化学的および遺伝学的に研究する必要がある. とくに電子顕微鏡学的研究では, 宿主内における細菌細胞の増減, 微細構造変化, 細菌由来物質の宿主内分布状況, 宿主細胞のオルガネラの増減および微細構造変化などを明らかにしなければならない. 同時にその結果を数値化し, 生化学的および遺伝学的結果と対応させる必要がある. ところが, 口腔感染症を電子顕微鏡で観察した報告は多数みられるが, 電子顕微鏡計測学的に研究した報告はほとんどみられない. 本研究では, 口腔感染症の発症機構を宿主と寄生体の相互反応の面から解析するために膿汁中に存在する食細胞の細菌貪食系を微細構造学的に観察した. ついでその写真をデジタル画像処理装置に入力して計測し, 細菌の病原因子と宿主の抵抗因子の発現状態を検討した. 実験に供した膿汁は5例の膿瘍から授取した. 電子顕微鏡試料はグルタルアルデヒド-四酸化オスミウム法または Kellenberger-Ryter法(四酸化オスミウム単独)で固定後, 通法によりエポキシ樹脂混合液に包埋し超薄切片を作製した. この切片を二重染色したのち電子顕微鏡で観察した. 画像計測は, 各症例から任意に選んだ電子顕微鏡写真100枚をデジタル画像処理装置(ルーゼックスFS, D法)に入力し二値化後行った. 任意に選んだ写真50枚を手動測定法(ペーパートレースと重量法あるいはプラニメータ法, M法)で計測し, 次の結果を得た. 1.採取した膿汁を嫌気培養すると, 全症例から細菌が検出された. 2.透過電子顕微鏡では, 多数の正常グラム陰性菌とグラム陽性菌が観察された. 3.細菌の量的変化を知るために食細胞におけるファゴソーム内細菌占有率をD法で計測すると, グラム陰性菌が33.0%, グラム陽性菌が43.8%であった. また, 食細胞のファゴソーム断面当たりの細菌数は1ないし30個みられた. 4.細菌の質的変化として莢膜を観察した. 莢膜の出現頻度はグラム陽性菌よりグラム陰性菌で高かった. 莢膜の細菌細胞における占有率はD法によるとグラム陰性菌で33.0%, グラム陽性菌では26.7%とグラム陰性菌で大きかった. 5.外膜由来小胞はその表層に内毒素を, 内部に組織破壊酵素を含み重要な病原因子である. 小胞の直径と面積は, それぞれD法によると平均26.0nmと541.0nm^2であった. 6.宿主の抵抗反応として, リソソームの宿主細胞内およびファゴソーム内占有率をD法で測定すると, それぞれ20.5%および21.1%であった. 7.D法とM法を比較すると, 低倍写真ではM法は計測できない場合があったが, D法は高速で正確に計測できた. 高倍写真では両測定法の値はほぼ一致していた. 以上のことより, デジタル画像計測法で宿主の抵抗性因子と細菌の病原性因子を量的および質的に数値化できることが明らかとなった. 今回得られた結果をもとに膿瘍形成にいたった理由を推定すると, 莢膜を有する細菌が食細胞の殺菌機構に抵抗してファゴソーム内で増殖するとともに, 小胞形成能が高くなり, 内毒素や組織破壊酵素を口腔組織内に分散させたことも一因と考えられる.
- 1995-08-25
著者
関連論文
- 歯周疾患患者に対する抗生物質の局所応用 : ペリオクリン^[○!R]と歯石除去の併用効果について : その2ペリオクリン^[○!R]の投与間隔
- 膿汁中細菌の微細構造ならびに画像処理
- 膿汁中細菌の微細構造ならびに画像処理
- 13 膿汁中細菌の微細構造ならびに画像処理 (第440回 大阪歯科学会例会)