高速切削における切削荷重の制御に関する人間工学的研究
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概要
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歯科用エアタービンハンドピース(以下HPと略す.)は切削荷重による回転数の変化が急激であり, 良好な切削を行うためには手指による高度な切削荷重の制御が必要である. 歯科大学の基礎実習では, 学生の形成した窩洞の形態, すなわち作業の結果についてはよく指導されているが, 形成の過程についてはその指導力法が確立されておらず, とくにフェザータッチによる高速切削作業などは指導が不足していると考えられる. 繊細な手先の操作は歯科医師にとっての基礎技術の一つであるため, 大学教育においても意識的に訓練する必要があり, またそのためには具体的で効果的な訓練法を確立する必要がある. 今回, 切削荷重の制御に関する人間工学的な基礎的研究の一環として, 高速切削時の微小な切削器具の動きを, 実際に切削を行うことなく再現する装置を作製し, この装置の訓練効果について評価するとともに, 手指による荷重のフィードバック制御の特性について検索を試みた. 高速切削時のHPの微小な動きを再現するため, 以下に示すような装置を作製した. 水を満たしたガラスシリンダ2つをテフロンパイプで連結し, その途中に精密ニードルバルブと電磁弁を設置した. 一方のガラスピストン(以下PTと略す.)を上方に引き上げると, その荷重に対応した速度でPTは移動する. 荷重を測定するための小型ロードセルと, 移動量を測定するための変位計をPTに取り付けた. 荷重が設定した値に達すると, 電磁弁が閉じてPTが停止するよう, リレーを接続した. 被験者が実際の臨床に近い姿勢で, また実物のHPを用いてPTを引き上げる作業を行えるよう, この装置を実習用マネキンに組み込んだ. この装置により実際に切削を行うことなく, 高速切削時の手指による微小な切削荷重の制御が再現できると考えられる. 被験者は, 大阪歯科大学第4学年学生10名を対照群とし, さらに同学第4学年, 第5学年の学生各10名, 卒後2年目の歯科医師5名を実験群とした. 全被験者を対象に, 実習用マネキンに取り付けたエポキシ樹脂製人工歯に, HPとダイヤモンドインスツルメントを用いて, 深さ2mm, 長さ6mmの直線窩洞を6回形成させ, 窩洞形成中のエアタービンの回転数の変化を経時的に測定した. 次に実験群の被験者を対象に, 今回作製した装置を用いて, 以下に示す4条件で6回ずつPTを滑らかに引き上げさせ, 作業中の荷重とPTの移動景を経時的に測定した. 1)PTを見ながら引き上げる. 2)目を閉じて引き上げる. 3)ペンレコーダに出力された荷重の変化を見ながら引き上げる. 4)荷重の変化に対応して音程が変化する音源を作製し, 音程によって荷重の変化を認識しながらPTを引き上げる. 最後に全被験者を対象に, 再び実習用マネキン上で最初と同様の窩洞を6回形成させ, エアタービンの回転数を経時的に測定した. PTを引き上げさせる動作の前後における, 窩洞形成中のエアタービンの回転数の変化を分析したところ, 荷重制御の訓練は技術教育の初期に行うことが有効であることが示唆された. 切削荷重の制御は, 筋紡錘や腱紡錘などの固有感覚器や, 聴覚, 視覚, 触覚などさまざまな受容器からの情報が中枢にフィードバックされて行われると考えられる. 今回作製した装置上での作業について, 荷重制御の特性を分析したところ, 荷重制御を行うにあたりおもに使用している情報は, 被験者によって多様であった.
- 1995-04-25
著者
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