歯の移動時における神経ペプチドの局在についての免疫組織化学的研究
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概要
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矯正歯科臨床においては, 歯を移動させると歯周組織に圧迫部と牽引部が生じることは周知の事実である. これらの部位で起こる組織変化は炎症反応として捕えることができ, 炎症の5大徴候のうちでも, とくに痛みに関しては, 矯正歯科治療の領域において大きな関心事である. 近年, 免疫組織化学の飛躍的な進歩により, 中枢および末梢での神経伝達に関与するペプチドについての研究が進み, 生体内で鎮痛に働くとされる enkephalin が注目されている. そこで, 痛みを伴うことの多い歯の移動時に, このペプチドがどのように発現するかを調べる目的で本研究を行った. Wistar系雄性ラットを用い, Waldoの方法に準じて上顎左側第一臼歯と第二臼歯間にゴム片を挿入して歯を移動させ, 挿入後1, 3, 6, 9, 12, 18, 24時間, 2, 7および14日目にラットを麻酔下で Zamboni 液で灌流固定し, 上顎を一塊として切り出し, 6週間低温脱灰したのち, 厚さ約15μmの連続横断凍結切片を作製した. トリプシン液および正常ウサギ血清で前処理を行い, 一次抗体に抗 enkephalin 抗体を, 二次抗体に FITC 標識ヤギ抗ウサギ IgG を用いて蛍光抗体法による免疫染色を行い, 検鏡した. また, HE染色も行った. さらに, 以上の実験で検出された陽性細胞に含まれる enkephalin の由来を調べるために, ゴム片挿入後, 1, 6, 9, 18, 24時間群について in situ ハイブリダイゼーション (ISH)法を用いて検索を行った. ISH法は, 4%パラホルムアルデヒド液で灌流固定後, 前述の手順で切片を作製した. 合成ヌクレオチドプローブはターミナルデオキシリボスクレオチドトランスフェラーゼを用いた 3'エンドラベリング法で [α^<-35>S]dATP の標識を行った. 標識されたプローブの特異性は0.5〜1.0×10^9cpm/μgである. 切片は後固定し, トリス緩衝液でインキュベートし, トリエタノールアミン液でアセチル化を行った. ハイブリダイゼーションは[α^<-35>S]dATP 標識プローブ (0.5〜1.0×10^6cpm/slide) を用いてインキュベートさせた. エタノール系列で脱水し, 乳剤をかけて露出後, 現像および固定を行った. また, ニュートラルレッドで対比染色を行い, 検鏡した. 対照群では, 蛍光抗体法による陽性細胞も, ISH法によるシグナルも認められなかった. 実験側では牽引側において, 6, 9, 12時間群で enkephalin 陽性細胞が認められ, とくに, 9時間群で著明であった. また, 牽引側歯根膜における enkephalin 陽性細胞の局在は歯頸部付近に多く認められ, そのなかでも近心根に比べて遠心の2根に多く認められた. 圧迫側では, 各群を通じて歯根膜内に enkephalin 陽性細胞がほとんど認められなかった. ISH法による観察では9, 18時間群の牽引側歯根膜にハイブリダイゼーションシグナルが認められた. 歯を移動したときに歯根膜内において, enkephalin が歯の移動に際して起こる痛みの調節機構に関連している可能性と, 歯根膜内の細胞がこの enkephalin を産生している可能性が示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1994-04-25
大阪歯科学会 | 論文
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