リン酸4カルシウム-コンドロイチン硫酸A合剤の根管充填剤としての物性と組織刺激性
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概要
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リン酸4カルシウム(TeCP)とリン酸水素カルシウム・2水和物(DCPD)との等モル混合物(TeDCPD)をMcIlvaine緩衝液と練和して根管充填用シーラーとして用いる可能性が検討され, その結果, 良好な生体親和性を有することが確認されている. そこで, 組織修復促進を目的としてMcIlvaine緩衝液にコンドロイチン硫酸ナトリウムA(Ch・S)を添加した液剤を試作し, この液剤とTeDCPDとの練和物(試作根充剤)を根管充填用シーラーとして用いる可能性について検討を行った. 材料および方法 粉剤がTeDCPD, 液剤が2.5%あるいは5.0%濃度にCh・Sを添加したMcIlvaine緩衝液からなる2種類の試作根充剤(試作根充剤-2.5, 試作根充剤U-5.0)を調整した. 対照に市販のアパタイト系根管充填用シーラー(ARS)および酸化亜鉛ユージノール系根管充填用シーラー(ZOE)を用いた. 試作根充剤の物性:練和後の経時的なpHの変動, 硬化時間および試作根充剤の崩壊率を測定した. また, 試作根充剤を練和して30分, 1時間, 1日, 3日および7日後の硬化過程での結晶構造をX線回折装置および走査型電子顕微鏡で検索した. さらに, ヒト抜去上顎中切歯根管を試作根充剤で充填し, 墨汁浸漬後の脱灰透明標本を作製して根尖封鎖性を検討した. 試作根充剤の生体親和性:練和した試作根充剤をSD系ラット背部皮下に埋入して周囲組織の反応を検索するとともに, SD系ラット下顎第一臼歯根管の抜髄後に試作根充剤を充填し, 根尖歯周組織の反応を検索した. 処置を施した1週, 2週, 3週および4週後に埋入体を周囲組織ごと, また, 顎骨を摘出して脱灰し, 免疫組織化学的手法に従ってパラフィン包埋した. 6μmの連続切片を作製してヘマトキシリン・エオジンまたはマッソン・トリクローム染色を施し, さらに, 一部の切片には抗ラット卓球/マクロファージモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学的染色を施して光学顕微鏡下で観察した. 結果と考察 試作根充剤のpHは, 練和後120分で試作根充剤-2.5では8.35付近で, また, 試作根充剤-5.0は8.45付近で安定した. 練和後9〜13分で硬化し, 崩壊率は試作根充剤-2.5が1.18%, 試作根充剤-5.0は1.92%であった, X線回折と走査型電子顕微鏡による検索の結果, 試作根充剤表面にハイドロキシアパタイト(HAp)結晶の析出, 成長が観察された. 試作根充剤の硬化はHAp結晶相互の絡み合いによって生じ, HAp結晶が硬化体表面を覆うことと未反応のTeCPが「骨材効果」を発揮することから機械的強度が得られるものと考えられた. ラット背部皮下に埋入した試作根充剤周囲の組織に炎症性反応は認められず, HAp結晶間隙に結合組織が入り込んだ所見が得られ, 試作根充剤の優れた生体親和性が明らかになった. 試作根充剤を応用した根尖歯周組織に歯槽骨の吸収が観察されたがARSあるいはZOEを応用した場合に比較して軽度で, 吸収された根尖周囲の歯槽骨辺縁に早期に骨芽細胞が観察され, 試作根充剤が歯槽骨と再生し病変の修復を促進する可能性が示唆された. 結論 TeDCPDとCh・S含有McIlvaine緩衝液との練和物について根管充填用シーラーとしての物性と組織刺激性を評価する実験を行った結果, 次のような結論が得られた. 1. 試作根充剤の硬化時間および崩壊率はISO規格に適合していた. 2. 試作根充剤のpHは練和2時間後にpH8.35から8.45で安定した. 3. 試作根充剤は練和直後から速やかにHApに転換した. 4. 試作根充剤は極めて良好な組織親和性を有することが明らかになった. 5. 試作根充剤は骨芽細胞を誘導して歯槽骨の再生を促進することが示唆された.
- 1993-08-25