サル, イヌにおけるクエン酸処置根面に対する歯肉付着について
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概要
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歯肉剥離掻爬術は歯周病の進行によって破壊された歯・歯肉付着を再確立させるため行われる. 術中の重要操作は, (1)ポケット上皮の除去, (2)ポケットの深化に伴って汚染したセメント質の処理である. とりわけ, 後者の汚染セメント質除去に注意が払われるが, そのセメント質掻爬根面への付着は接合上皮によることが多い. このような状況から, 近年, より強固な付着を求める種々の根面処置法が開発, 提唱されている. その一つである根面への酸塗布は, 1889年, Stewartによって歯周疾患歯表層にみられる過石灰化層への対応処置として紹介された. 以後, 1970年半ばに, Registerらがイヌの酸処置象牙質根面に歯肉再付着を認めたことから, この根面処置法に注目が集った. その後, ヒトや動物を対象として, この酸処置法の有効性が調べられてきたが, 期待した結果の得られない報告も少なくない. 西村らは, サルの酸処置根面への初期付着を超微構造学的に観察したが, この初期検索では, Registerらの示した新旧線維の嵌合はみられなかった. そこで今回, より長期的にサル酸処置根面への歯肉付着観察を行った場合, どのような付着が形成されるか, また, イヌ, サルという種差が付着形成にどのような影響をもたらすかを検索した. 実験動物は, サル3頭とイヌ3頭を用い, その左右上顎犬歯を実験歯とした. 実験は, まず実験歯部の歯肉を剥離, 骨を根尖方向に約3mm削除し, 根面を露出させた. ついで, 露出根面をルートプレーニングし, pH1.0のクエン酸を3分間塗布した. 同部を十分洗浄後, 歯肉弁を元の位置に戻し縫合した. 術後2, 3, 4週に光顕的, 電顕的観察を行った. 光顕所見:脱灰根面に接する結合組織の線維化は, イヌにおいて2週でかなり進んでいた. 3週になると, より線維化した結合組織が根面に接し, 多角形の細胞が根面上に種々の方向性をもって配列した. そして4週では, 脱灰層に沿ってセメント芽細胞が規則的に配列し, その両者間にセメント前質が形成された. 一方, サルでは3週においても, 根面に接する結合組織には軽度の炎症がみられ, 線維組織の成熟化に遅れがみられた. 4週では, 炎症は消失したものの, 脱灰層に接する線維組織に十分な成熟化はみられなかった. 吸収窩は, イヌでは2週に多くみられたが, 直ちにその吸収窩がセメント質でうめられた. 半面, サルでは3, 4週でも吸収がつづき, その吸収量も大きく, のちに骨性癒着に移行する例がみられた. 電顕所見:2週のイヌ試料では, 歯冠側部から根尖側部に, 脱灰露出線維と細胞間に明瞭な横紋構造を有する膠原線維が多量にみられた. これら線維の一部は, 脱灰露出線維間に進入, 新旧線維の嵌合がみられた. 3週では, 新生線維と脱灰露出線維とがより強固に嵌合する像がみられた. 4週になると, 脱灰露出線維上に密な膠原線維の集積(セメント質形成)がみられた. 一方, サル2週例の脱灰露出線維と近接する細胞間には, 細線維が認められた. 3週, 4週になると, それら膠原線維は2週例に比べ, 太く, 構造的にも明瞭な周期性を有したが, 新生線維の密度はイヌに比べかなり劣った. 新生線維と脱灰露出線維との嵌合は, イヌと違って弱かった. また, サルでは脱灰層表層の膨化, 分解が実験期間を通じてみられ, しだいに脱灰層幅を減じた. 以上のことから, 本実験結果は,種差により脱灰露出線維への治癒組織の対応が大きく異なることを示した. とくに, イヌに比べて治癒の遅れたサルでは, 脱灰露出線維の生物学的処置にかなり時間を要することが明らかになった.
- 1993-08-25
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