唾液分泌時における傍細胞性輸送経路の陰性荷電部位の変動について
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概要
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腺房部細胞のtight junctionは物質の透過に対して強いバリヤーとなっていると考えられてきたが, 分泌刺激を与えると間質液の成分が腺腔内へ流入する現象が見られることから, 唾液腺には傍細胞性輸送が存在することが明らかになった. しかしながら, tight junctionがどのような機序によって開くのかは不明であり, またtight junctionの開閉に伴う腺細胞膜の物理化学的な変動についても観察されていない. ところで, 細胞表面は通常陰性に荷電していることが知られているが, この陰性荷電部位は細胞の接着, 変形,移動および貧食などに伴って変動するという報告がある. すなわち, 腺細胞のtight junctionの開閉は隣接する細胞が接着, 分離あるいは変形をしている状態であると考えられるから, 腺細胞の安静時と分泌時とでは細胞表面の荷電性が変動する可能性がある. そこで, ラット顎下腺腺房部細胞のtight junctionの透過性をトレーサーのmicroperoxidase (分子量:1,900)によって確認するとともに, 安静時およびsubstance P刺激後におけるtight junctionを含む傍細胞性輸送経路の荷電性を, 多価陽性荷電物質のruthenium redあるいはcationized ferritinを用いて細胞化学的に検索した. 得られた結果は, 以下のとおりである. 安静時では, microperoxidaseは細胞間隙に認められ, tight junctionおよび腺腔内には認められなかった. しかし, substance P刺激後には, 細胞間隙, tight junctionおよび腺腔内にmicroperoxidaseが認められた. すなわち, 分泌刺激の投与によってmicroperoxidaseがtight junctionを通過することを確認した. 腺組織をruthenium red溶液に浸漬したときのruthenium red粒子の結合状態は, 腺房部細胞膜でも導管部細胞膜でも共通した所見を示した. すなわち, 安静時では, ruthenium red粒子は腺細胞の基底側膜および細胞側壁膜に均一に結合したが, tight junctionにはruthenium red粒子の結合は認められなかった. しかし, substance P刺激後には, 細胞側壁膜におけるruthenium red粒子の結合ほ明らかに減少し, 反対にtight junctionではrutheniumred粒子の結合が認められるようになった. また, とくにtight junctionの陰性荷電部位を検索するために, cationized ferritin溶液を顎下腺の主導管より逆行性に注入したが, cationized ferritinの粒子は, 導管部細胞のみに結合した. 安静時では, cationized ferritin粒子は細胞側壁膜および腺腔側膜に結合し, tight junctionには結合しなかった. しかし, substance P刺激後には, cationized ferritin粒子はtight junctionのみに結合し, 細胞側壁膜および腺腔側膜には結合しなかった. 以上の結果から, ラット顎下腺腺細胞の細胞側壁膜, tight junctionおよび腺腔側膜の陰性荷電部位は, substance P刺激後には安静時とは対称的に変動することが明らかになった. なお, tight junctionの物質透過性と荷電状態との具体的な関連性については, 今後の検討が必要であると考える.
- 大阪歯科学会の論文
- 1993-08-25