ラット顎関節グリコサミノグリカンの加齢変化
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概要
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顎関節のグリコサミノグリカン(GAG)は, 組織の恒常性維持をつかさどると同時に, 顎運動の滑材および圧迫力に対する緩和に重要な役割を果たしている. しかし, 顎関節に含まれるGAGに関する研究はまだ十分とはいえず, とくに, その加齢変化についての報告は少ない. そこで, 本研究では, 加齢に伴う顎関節全体のGAGの変化を組織化学的, 免疫組織化学的および生化学的に検討した. 実験には3, 5, 10, 15, 30および50週齢のSDラット(雌)各10匹を使用した. エーテル麻酔下のラットから顎関節を一塊として摘出し, 各週齢とも5匹分は組織化学的および免疫組織化学的観察に, 残りの5匹分は生化学的分析に用いた. 免疫組織化学的観察に用いたパラフィン切片は, 脱パラフィンして過酸化水素水含有メタノールに浸潰したのち, コンドロイチナーゼABCで処理した. ついで, 一次抗体2B6, 3B3, 6B6および5D4をそれぞれ作用させ正常ヤギ血清を反応させてブロックした. さらに, 二次抗体のビオチン標識ウサギ抗マウスIgを反応させ, ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを作用させた. 免疫反応後の切片は, ジアミノベンチジンで発色させ, さらに, ヘマトキシリンで核染色を施した. また, ヒアルロン酸については, ストレプトミセスヒアルロニダーゼを用い, 従来の酵素消化法で同定した. 生化学的分析に用いた試料は, 顎関節から周囲の筋組織を除去し, 下顎窩, 関節円板および下顎頭のみとしたものから抽出, 精製したGAGを使用した. 全GAGのウロン酸量は, D-グルクロン酸を標準としてBitter-Muir法で測定した. GAGの分子種はセルロースアセテート膜一次元電気泳動で同定した. 泳動後のアセテート膜はアルシアンブルーで染色後, デンシトメーターで分画パターンを解析し, 各分画ピークの積分値を求めた. その結果, 組織化学および免疫組織化学的には, 下顎頭, 下顎窩および関節円板にヒアルロン酸, コンドロイチン硫酸, デルマタン硫酸およびケラタン硫酸の局在が観察された. 加齢に伴ってコンドロイチン硫酸に対する反応は減弱し, デルマタン硫酸およびケラタン硫酸に対する反応は増加した. しかし, ヒアルロン酸の加齢に伴う変化は明らかでなかった. 一方, 生化学的には, ヒアルロン酸, コンドロイチン硫酸, デルマタン硫酸およびケラタン硫酸が同定された. 3週齢と50週齢のGAGの構成比率を比較すると, 総GAGの主体をなすコンドロイチン硫酸は66.8%から53.2%に, ヒアルロン酸は22.6%から14.3%にそれぞれ低下し, デルマタン硫酸は6.4%から14.4%に, ケラタン硫酸は4.2%から18.1%に上昇した. また, 組織乾燥重量あたりのGAG量は加齢に伴って3.0μg/mgから0.9μg/mgへと減少した. 以上の結果は, 顎関節組織が加齢とともに弾性を失い, 圧負担に対する緩衝能力を減弱させていくことを示唆すると考える.
- 1993-04-25