リン脂質によるグリコプロテインの物理化学特性の変化と水素イオンの透過性について
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概要
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ぺリクルは, エナメル質に付着した無細胞性, 無構造性の微生物が存在しない有機質性被膜であり, 主として唾液由来のグリコプロテインからなる. そのほかの構成成分として, 糖質, 脂質などを含んでいる. 著者らの講座では, 蕾が脂質の有無ならびにコレステロールおよびホスファチジルコリンのグリコプロテイン層に及ぼす物理化学特性, とくに疎水性および表面電位の変化, ならびにエナメル質表面に形成されたぺリクルを想定して設計したdiffusion chamberを用いて, グリコプロテイン層において脂質の介在により各種イオンの透過阻止に重要な役割を果たすことを報告している. そこで, 脂質がぺリクルの性状に及ぼす影響について研究の一環として, 本研究は, グリコプロテインの標品を用い, ホスファチジルエタノールアミン(以下PEと略す.)またはホスファチジルセリン(以下PSと略す.)によるグリコプロテイン層の物理化学特性, とくに疎水性および表面電位の変化, ならびに水素イオンの透過性に与える影響を明らかにする目的で行った. 対照としてα_1-acid-glycoprotein (Human serum, Sigma Chemical Co., St. Louis, MO, USA)を-10℃のethanolとetherで脱脂したグリコプロテイン(以下DGPと略す.)を用いた. DGPとPE(Sigma Chemical Co.)を重量比で1:1, 2:1および3:1に調製し, 0.02%NaN_3含有の0.155M NaCl-0.05M sodium phosphate buffer(pH7.2)に加え, 5分間超音波処理し, 37℃恒温槽中で2時間処理後, 蒸留水に透析し, 凍結乾燥したものを用いた. また, DGPとPS(Sigma Chemical Co.)を重量比で1:1, 2:1および3:1に調製し, 前記の方法で処理したものを用いた. これら6種類のリン脂質含有グリコプロテインを実験群とした. 脂質によるグリコプロテインの物理化学特性の変化は, 蛍光プローブ 8-anilino-1-naphthalene sulfonateを用い, グリコプロテインの疎水性および表面電位を測定して検討した. 同時にリン脂質の存在がグリコプロテインのイオン透過性に与える影響は, diffusion chamberを用いて検討した. 1. リン脂質含有量の多いグリコプロテインの疎水性および表面電位は高かった. 2. グリコプロテインの疎水性と水素イオンの透過性について, PSまたはPEそれぞれの脂質において, その含有量が多くなると, 疎水性が高くなり, 水素イオンの透過係数は低下したが, PSとPEの異なる種類の脂質において, 疎水性が高くなるにつれて水素イオンの透過係数が低くなることが一致しないことは, グリコプロテインの疎水性が水素イオンの透過阻止にもある程度まで関与することを示唆している. 3. グリコプロテインにおける表面電位の高低と水素イオンの透過係数の大小が一致したことは, グリコプロテインの表面電位が水素イオンの透過阻止に大いに関連のあることを示唆している. 以上の結果から, リン脂質はグリコプロテインの物理化学特性を変え, グリコプロテインの水素イオンの透過性に影響を及ぼすことが明らかとなった.
- 大阪歯科学会の論文
- 1993-04-25
著者
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