ヒト歯肉癌ヌードマウス移植系の増殖過程にみられるコラーゲンおよびテネイシンの動態
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概要
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癌組織は, 正常細胞とは異なった増殖, 移動および接着様式をもつ癌細胞が, 周囲組織を破壊しつつ散在性に増殖することによって進展する. この過程で起こる細胞外マトリックス(ECM)成分の質的・量的変動は, 癌細胞と宿主細胞のもつ生物学的性状に由来する相互作用を反映すると考えられることから, 近年, 細胞-ECM間の相互作用について多方面から検討が加えられている. ECMの主要構成分子であるコラーゲンについては, 単なる組織構築分子としての機能だけではなく, 細胞モジュレーターとしての基本的な役割をも注目されている. しかし, 癌組織におけるコラーゲンの機能については, 癌の発現部位,種類および分化度などの複雑な要因によって支配されるため, 今なお一致した見解が得られていないのが現状である. また, テネイシンは, 発生初期の上皮原基を包む間質では発現するが, 発育過程では消失し, 細胞の癌化に伴って再び発現するECM成分として注目されているものの, in vivo での機能や発現変動の意義については不明な点が多い. そこで本研究では, 癌組織の進展過程におけるECMの役割を解明する目的で, 継代中のヒト歯肉扁平上皮癌ヌードマウス移植系(GK-1)を用いてコラーゲンとテネイシンの質的・量的変動および局在を生化学的, 免疫組織化学的に検索し, 両ECM分子の機能について考察を加えた. 癌容積は移植後5週目から対数増殖を示し, それに平行して癌組織の総コラーゲン(Hyp)量も増加した. SDS-PAGEと免疫反応で分析すると, 癌組織のコラーゲンはI型, III型, IV型およびV型の4分子種から構成されていた. 各分子種の構成比率は, I型以外では経週的な変化を示し, IV型およびV型コラーゲンは移植後5週目からゆるやかな上昇, III型コラーゲンは5週目まで上昇, それ以後は低下を示した. また, 組織免疫反応を行うと癌胞巣基底膜のIV型コラーゲンは不連続性の局在を示していた. 癌組織のテネイシンは, 間質のすべてと基底膜の一部に局在し, ELISA法による定量では移植後5週目をピークとして減少傾向を示した. またウェスタンブロッティング法によるS-S結合還元下の分子サイズは220kDaと130kDaで, 臨床的健全歯肉組織の分子サイズとは異なっていた. 以上の結果から, コラーゲンは癌細胞に増殖の足場を提供するかたわらその増殖に対する宿主の防御反応として機能し, テネイシンは癌細胞の刺激によって付加的に発現し, 癌組織の増殖に適した環境を維持するように機能することが示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1993-04-25
著者
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