背部皮下肉芽嚢の成因から見た歯根肉芽腫の成立機転
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
歯根肉芽腫は主として根管を介する細菌感染を原因として成立する. また, その成立に免疫応答の関与する可能性や細胞性免疫応答に直接的な関連性のないことなどが報告されている. しかし, 歯根肉芽腫の成立機序に関する一致した見解はないのが現状である. 今回の実験では, ラット背部皮下組織内に種々の刺激因子によって形成させた肉芽嚢の病理組織学的検索と肉芽嚢内溶液における細胞動態の検索を行い, 同じ刺激因子に起因するラット下顎臼歯根尖病変の病理組織学的所見とを比較, 検討することによって, 根尖病変の成立機序の解明を試みた. 実験材料および方法 実験には7週齢の雄性SD系ラット69匹を用い, 0.1mg/ml濃度のLPS, 10mg/ml濃度のBSA, KLHを結合した直径約6μmのラテックスビーズ (KLHビーズ) および直径約6μmのラテックスビーズ (ビーズ) を刺激因子とした. 69匹のラットのうち45匹の背部皮下組織内に空気嚢を作製して9匹ずつ5群に分け, 2日後に第1群にLPS, 第2群にBSA, 第3群にKLHビーズ, 第4群にビーズそして第5群には生理食塩水を各空気嚢に注入した. その2, 4および7日後に肉芽嚢を摘出し, 病理組織学的ならびに免疫組織化学的方法による検索と湿重量の測定を行った. また, 嚢内液中のマクロファージ (Mφ) を主とする細胞の動態について塗抹標本を作製して検索した. 残り24匹のラットには下顎左右側第一臼歯の髄室を開拡して根管を#30のリーマーまで拡大・形成し, 6匹ずつ4群に分けてLPS (第6群), BSA (第7群), KLHビーズ (第8群) およびビーズ (第9群) を根管内に填入した. 2週および4週後に下顎骨を摘出し, 根尖歯周組織を病理組織学的ならびに免疫組織化学的に検索した. 結果 第1群では肉芽嚢の平均湿重量が2日後に約7.4gであったが, 4日以後には約4.8〜4.7gに減少した. 肉芽嚢は多数のMφを含む密な結合組織からなっていたが, 7日後には結合組織が変性し, Mφが減少した. 嚢内液中の細胞は4日後まで多形核白血球が多数を占めていたが7日後には減少し, Mφおよびリンパ球が増加した. 他の群では肉芽嚢の平均湿重量は約2.5〜1.3gであった. 第5群を除いて一般に肉芽嚢は疎性結合組織からなっていた. 肉芽嚢組織中のMφは第2群でわずかに観察される程度であったが, 第3群および第4群では豊富に認められ, ビーズがMφに貪食された所見も得られた. 第5群の肉芽嚢はMφの少ない粗な結合組織で構成されていた. 嚢内液中の細胞におけるMφの割合は, 第2群で2日後に約60%であったが経日的に増加した. 第3群および第4群では80%〜90%で, ビーズを貪食したMφも多数存在した. 第5群の嚢内液中のMφの比率は60%前後であった. ラットの根管に刺激因子を填入した結果, 第6群では根尖部に膿瘍が形成され, 4週後には膿瘍が縮小して病変は線維性結合組織で満たされていた. 第7群では根尖部にMφが集積していたが, 4週後には根尖孔付近に限局し, 病変は線維性結合組織で満たされていた. 第8群および第9群では4週後にも根尖周囲組織に多数のMφが集積して肉芽腫様の病変を形成していた. 結論 本実験の結果, 皮下肉芽嚢の成立に深く関与したLPSが根尖部では肉芽腫の成因とはならなかった. 一方, 不溶性因子のビーズは抗原の吸着の有無に関わらず皮下肉芽嚢形成の原因とはならなかったが, 根尖部においては肉芽腫様病変を成立させた. これらの事実から, 細菌性因子が持続的に根尖部に供給されるか, あるいは, 根尖部に不溶性因子が存在してマクロファージの動員が続くと, 歯根肉芽腫が成立し, 存続するものと考えられた.
- 大阪歯科学会の論文
- 1992-08-25