ラット矢状縫合のコラーゲンに及ぼす拡大力の影響
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概要
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生体の縫合部結合組織は, 外力に抵抗性を示すコラーゲン線維を豊富に有するとともに, 石灰化にも関与している. 矯正歯科臨床では, このような特徴をもつ縫合に拡大力を付与することによって不正咬合の治療が行われている. これを安全かつ効率的に行うためには, 拡大力による生体反応を十分に把握する必要がある. 本研究では, 拡大力の大きさの差異が縫合部結合組織の修復に及ぼす影響について, コラーゲンの生化学変化と組織所見を対比しながら検討した. 実験では, 6週齢SD系雄性ラットの矢状縫合に対して左右対称に, 直径0.5mmおよび0.7mm矯正線で作製したspringを装着した. 適正な拡大力 (70g, 0群) と過剰な拡大力 (220g, E群) を3日間付与したのち, 保定を行い, 保定後7日間の変化を捉えた. 生化学分析のために, 難開された矢状縫合を含む8mm×5mmの一定面積の骨組織を摘出した. ポリ卜ロンで懸濁化したのち, EDTAで脱灰し, 凍結乾燥によって得られた乾燥試料から, 総タンパク量, DNA量およびコラーゲン量 (ヒドロキシプロリン量) を測定した. ペプシン可溶性コラーゲンのα鎖を, 尿素を加えたトリス-グリシン系SDS-PAGEによって分離し, III型/I型コラーゲン比を測定した. また, 組織学検索では通法により厚さ7μmの矢状縫合前頭断のパラフィン標本を作製し, H-E染色を施した. その結果, 総タンパク質は, E群では0群より高い値で推移し, その変化は両実験群ともにDNA量の変化と非常に類似していた. 組織所見から, E群では新生骨形成の遅延と新生骨周囲に骨芽細胞および線維芽細胞の集積が長く継続することが観察された. すなわち, 総タンパク量およびDNA量の変化は, これらの組織修復に関与する細胞に由来し, 過剰な拡大力を付与したE群では新生骨形成の遅延を補うために高い代謝活性を示したと考えられた. コラーゲンの量的変化は, 保定0日目の0群では対照群の約70%, E群では約45%と低い値であったが, そののち両実験群とも増加し保定7日目には対照群の水準まで回復した. 一方, コラーゲンの質的変化を示すIII型/I型コラーゲン比は, 保定0日目のE群では0群よりも高い値を示した. 両実験群のIII型/I型コラーゲン比は経日的に低下したが, 保定7日目に至っても, E群では0群よりもまだ高い値を示した. これらの結果は, 過剰な拡大力によって矢状縫合を離開した場合には適正な拡大力の場合よりも, 縫合部結合組織でI型コラーゲンの分解系がより亢進し, コラーゲン量 (ヒドロキシプロリン量) の増加に影響を与えたことが示唆されると同時に, 組織修復反応に対応した細胞代謝活性の亢進にみられるIII型コラーゲンの急速な増加が起こるためと考えられた. 両実験群のコラーゲン量 (ヒドロキシプロリン量) の経日的増加とIII型/I型コラーゲン比の経日的低下は, 縫合部結合組織の修復がコラーゲンによって相補的に進行することを示し, その修復はコラーゲンの量的レベルでは両実験群ともに対照群の水準まで進行しているが, 質的レベルでは適正な拡大力を付与した0群に比べ過剰な拡大力を付与したE群では対照群の水準にまで十分に進んでいないことが認められた. このような修復レベルの微妙な違いが, 新生骨の形成にも少なからず影響を与えていることが示唆された. 以上より, ラット矢状縫合の拡大に際して, 過剰な拡大力によって縫合を離開することは適正な拡大力を用いる場合に比べ, コラーゲンによる結合組織の修復と新生骨の形成を遅延させることを確認した.
- 大阪歯科学会の論文
- 1992-08-25
大阪歯科学会 | 論文
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