有限要素法による乳臼歯窩洞の形態ならびに修復材料と歯痛発現との関連についての研究
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概要
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痛みの臨床的分類として, 自発痛, 機能時疼痛, 刺激時疼痛などである. そのうちで, 温度刺激は, 加熱したガッタパーチャを歯の咬合面にあてると等温線が広がっていくように歯の中を拡散していくとNewtonらが述べており, Henselらは, サーモエレメントによる熱-冷刺激装置を用いて, 上顎中切歯の温度刺激に対する反応を計測し, 象牙-歯髄境が47.7℃に加熱されたとき, または, 26.4℃に突然に冷却されたときに痛みの閾値に達すると述べている. さらに, Naylorも, 同様な装置を用いて温度刺激に対する痛みの閾値を測定し, 約30℃に下降したときはじめて痛みが認知されたと記述している. 乳歯は, 永久歯と比較してエナメル質および象牙質の厚みが菲薄で, 永久歯の約半分しかなく, 歯髄腔が大きく, 髄角が先鋭で突出しているという形態的な特徴のため, 修復窩洞の適正な設計や修復材料の的確な選択を行わなければ, 種々の刺激, とくに温度刺激に対して歯痛が生じることになる. そこで, 著者は, 有限要素法の熱伝導解析を用いて, 修復された乳臼歯の温度分布について乳臼歯の窩洞の形態と修復材料の熱伝導率の相違による修復物および歯質内の温熱および冷熱分布について解析し, 歯痛誘発温度との関連について解明しようとした. 二次元有限要素モデルは, 下顎の第一乳臼歯および第二乳臼歯歯冠部の近・遠心的縦断面を基準とし, 200個の節点と332個の三角形要素に分割し, 下顎の乳臼歯における2級窩洞での歯痛発現の相違を解明するために, 実験グループは, 下顎の第一乳臼歯および第二乳臼歯に咬合面1級窩洞の修復を施したもの, 下顎第一乳臼歯が咬合面1級窩洞で下顎第二乳臼歯がOM 2級窩洞の修復を施したもの, 下顎第一乳臼歯がOD 2級窩洞で下顎第二乳臼歯が咬合面1級窩洞の修復を施したものおよび下顎第一乳臼歯がOD 2級窩洞で下顎第二乳臼歯がOM 2級窩洞の修復を施したものの4種類, および各2級窩洞で下顎の第一乳臼歯および第二乳臼歯の接触点から側室の深さが2.0mm, 2.5mmおよび3.0mmの3種類とした. 解析は, 定常熱伝導問題とし, 下顎の第一乳臼歯および第二乳臼歯の温度刺激部位は咬合面全体, 温度刺激は小児の体温の37℃を基準とした. また, 温熱刺激は37℃〜70℃, 冷熱刺激は37℃〜0℃とした. 修復材料の熱伝導率は, レジン修復を0.0005およびアマルガム修復を0.0550の2種類とした. なお, 有限要素の解析には, 京都大学大型計算機センターのFACOM-M 780型を用いて熱伝導解析の演算を行い, 温・冷熱刺激時の各節点の温度分布を算出した. その解析結果に基づき修復物内および歯質内の等温線図を作図した. その結果, 以下の結論を得た. 1. 正常な下顎の第一乳臼歯および第二乳臼歯の咬合面に約57℃の温熱刺激または, 約21℃の冷熱刺激を加えた時それぞれ歯痛が発現する閾値に到達し, その閾値は髄角部で最初に発現した. 2. 下顎の第一乳臼歯および第二乳臼歯の咬合面修復時には, 温度刺激が一定であれば, 熱伝導率の低い修復材料ほど歯痛発現の温度が低くなった. 3. 下顎の第一乳臼歯および第二乳臼歯の隣接面の側室が, 深くなればなるほど, 熱伝導率の高い修復材料ほど歯痛発現の温度がいっそう高くなった. 今回の研究によって, 乳臼歯修復窩洞の形態と修復材料の熱伝導率とが歯痛の発現に密接に関連していることが示唆された.
- 1992-04-25
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