フッ化物処理エナメル質の表面性状に関するX線光電子学的研究
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概要
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エナメル質表面からnm単位の層別深さにおける元素分析およびフッ素処理によるエナメル質表層における元素の動体分析を行う目的でX線光電子分光 (ESCA) 分析による検索を行った. エナメル質試料には, ヒト新鮮抜去歯を用い, エナメル質ディスクを作製した. フッ化物溶液にはF濃度9,000ppmに調整したフッ化ナトリウム溶液 (NaF) および酸性フッ素リン酸溶液 (APF) を使用した. なお, それぞれのpHは, 6.8および3.6である. フッ化物処理法は, エナメル質ディスク表面をフッ化物溶液10mlで4分間浸潤状態にして行った. その後, 蒸留水で洗浄, 乾燥しESCA分析を行った. ESCA分析には, 島津社製, ESCA-Type 750を用い, 広域走査によるスペクトルから試料の定性分析を行い, また, Ca, P, O, C, NおよびF元素の狭域走査によるスペクトルから, 定量分析およびフッ化物処理によるフッ素反応生成物の同定を行った. 広域走査によるスペクトルから, 無処理エナメル質の最表層から11層目 (約300nm) には, Ca, P, CおよびOの存在を確認した. しかし, Nは最表層および2層目のみに認められ, 3層目 (約60nm) より深い層には検出されず, 最表層における表層下ペリクルが最表層から60nm範囲に存在することが明らかになった. また, NaFおよびAPF処理エナメル質の最表層から11層目では, 無処理エナメル質に比べ, Fのピークが明確に認められ, NaFおよびAPF処理によるエナメル質へのフッ素の取り込みが明らかになった. 無処理エナメル質の表層におけるCa/Pは, ハイドロキシアパタイトの化学量論値 (1.67) よりも低い値 (1.44) を示した. これは, エナメル質表層が, Calcium deficientの状態であることを示唆している. エナメル質にNaFを処理すると, Ca/Pは無処理の場合に比べ高くなり, ハイドロキシアパタイトの化学量論値に近づく傾向を示した. また, F/Caもフルオロアパタイトの化学量論値に近づく傾向を示した. すなわち, NaF処理エナメル質表層にフルオロアパタイトが生成されていることを確認した. 一方, APF処理エナメル質のCa/Pは, 無処理およびNaF処理に比べ明らかに高い値を示し, F/Caも, NaF処理に比べて, 明らかに高い値を示した. すなわち, APF処理エナメル質の表層には, フッ化カルシウムの生成が示唆された. しかし, この生成されたフッ化カルシウムは純粋なフッ化カルシウムとは異なり, リンおよび酸素を含有しているフッ化カルシウム様物質であることが明らかになった. 以上のことから, エナメル質表層のnm範囲の層別化学組成分析が, ESCAにより可能であることが明らかになった. また, フッ化物処理エナメル質表層に生成されるフッ素反応物の解析にESCAが有効であることが明らかになった.
- 1992-04-25
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