放射線照射が顎下腺の微小循環系に及ぼす影響に関する実験的研究
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概要
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口腔癌に対して, 顎顔面の形態や口腔機能の保存を考慮して放射線療法が積極的に用いられ, 好成績が得られている. しかし, 治療成績が向上し, 長期生存例が増えるにしたがい, 放射線照射による唾液腺障害のため口腔乾燥症を引き起こし, それに継発する多発性齲蝕や歯周炎が多く経験されている. また, これらの多発性齲蝕や歯周炎が放射線骨髄炎および放射線骨壊死の誘因となることもありうる. 放射線障害の主因は血管系の障害といわれ, とくに微小循環系の障害が放射線感受性の高い組織の早期および晩発性障害の原因であるとされている. 放射線照射後の微小循環系の血管構築および組織血流量の変化などを知ることは, 晩発性障害に対処するうえで臨床的に重要である. そこで著者は唾液腺の障害過程をみるために, ラット顎下腺に10Gyおよび30Gyの各1回放射線照射を行い, 照射後の顎下腺の重量, 組織血流量および病理組織学的変化, 30Gyの1回放射線照射後の微小循環系血管構築について検討した. 結果 1. 顎下腺の重量比の変化 顎下腺の重量比は照射後2週で10Gy照射群が9.9%, 30Gy照射群が20.3% (p<0.01), 照射後3か月では, 10Gy照射群が21.3%, 30Gy照射群が45.2% (p<0.01) の減少を示した. 2. 顎下腺の組織血流量の変化 顎下腺の組織血流量は照射後3日では10Gy, 30Gy照射群ともに少し増加し, 照射後1週ではさらに増加し, 最高値を示した. 照射後2週には両群とも減少するが, 照射後1か月になるとさらに減少し, 照射側は非照射側に比べて低値を示し, それ以後回復しなかった. 照射後3か月では, 10Gy照射群が4.7%の減少であるのに対し, 30Gy照射群は27.1%の減少を示し, 両群間に著明な差がみられた (p<0.001). 3. 顎下腺の病理組織学的変化 10Gy, 30Gy照射群とも経時的に退行性変化が進み, 照射後3か月では腺房細胞は萎縮し, その核は膨化, 崩壊あるいは消失しているのが認められた. 線条部細胞は膨化し, 管腔は強く狭窄していた. 腺房相互の間隙, 小葉間導管および血管周囲には線維化が認められた. 4. 顎下腺の微小循環系の形態的変化 30Gy照射後の血管構築の初期変化としては, 血液成分の血管からの漏出やところどころで血管の破綻が認められた. 照射後1週では毛細血管が盲端に終わる箇所がみられ, 照射2週以後, 経時的に盲端の数が増し, 毛細血管の走行も直線的となった. 照射後1か月ではさらに毛細血管の数は減少し, 一部は細動静脈枝より分枝した直後に盲端となっていた. 照射後3か月になると, さらに盲端に終わるものが多くなり, 短く直線的であった. 3か月まで実験期間中には微小循環系の血管新生は認められなかった. 以上の結果を比較検討すると, 1) 顎下腺に10Gy以上のX線1回照射を行うと, 顎下腺組織は経時的に線量依存性に退行性変化を示し, 回復の徴候は認められなかった. 2) 微小循環系の破綻の程度と組織血流量の減少とは密接な関係のあることがわかった. そこで顎下腺の組織血流量を測定して, 顎下腺組織の障害の程度を把握すれば, 多発性齲蝕や歯周炎を予防するための口腔内環境の改善, 維持に効果的であると考えられる.
- 1992-04-25
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